日本三大清流のひとつ、柿田川を自転車で周遊した。柿田川?何それ?筆者も知らなかったし、周囲の人に尋ねても誰も知らなかった。ふとした拍子に調べたところ、長良川や四万十川と並び称されるのが聞いたことがない柿田川だった。しかも全長1.2kmの一級河川。何それ?何それ?疑問符を満載してBromptonを輪行、新幹線に乗って三島駅に降り立った。
駅前の観光案内所で教えられた柿田川公園へ3km少々で到着。しかし川は見えない。観光客が歩く方向に進むと第一展望台の表示。階段を下ると木々の中から川が現れる。水面まで数メートルの展望台。確かに透明で清らかな水が緩やかに流れている。よく見ると川底では黒い砂が巻き上がっている。これは富士山の雪解け水が湧き出す「わき間」。ここが柿田川の始点らしい。
少し離れた第二展望台でも階段を下ると、地下からの湧水が見える。水深が深いからなのか、水中の円型土管が深い青緑の水を湛えている。かつて紡績工場の井戸だったらしい。通称ブルー・ホール。柿田川の湧水量は東洋一と呼ばれたほど豊富で、現在も工業用水ともに周辺市町村の上水道として利用されている。公園の中ほどにある湧水広場で手にすくった水は冷たく美味しかった。
その後は水面近くに架けられた木の八橋を巡り、湧水や川を間近に見ることができる。そして橋が終わって階段を登ると公園の出口となる。公園の大半は自転車を押し歩くことになり、大きく重たい自転車なら苦労するだろう。それは自転車乗りの勝手としても、柿田川に直接触れることがなかったことに気が付く。整備された公園は、つまるところ隔離施設だった。
それは公園以外も同様で、川の周囲は住宅地で狭い路地を進んでも川辺には至らない。それどころか川を目にすることもない。唯一の例外は柿田橋から眺める風景。その北側は穏やかで美しく、南側は壮麗に水が渦巻きながら終点に向かう。しかしそれを眺めるしかない。航空写真で見つけた小学校の親水広場も水道事業者の取水施設も、頑丈な鉄格子が立ち入りを阻んでいた。
これは何の皮肉だろう。日本でもっとも清らかな川に手を差し伸べることができないのだから。川は眺めるだけの対象ではないし、水は流れ去るだけの存在ではない。Water of Life…新約聖書からDUNEに至るまで、水は生命の源として讃えられてきた。いや、言われるまでもなく、生物にとって水は不可欠であり、不変の快楽原則だ。だからこそ、柿田川に降り立ちたいと思った。




