快楽原則 07: ルサカ

6月下旬にザンビアに赴いた。アフリカ大陸の中央南部に位置する内陸国だ。20年来の知人の出身地であり、卒業生がアーティスト・レジデンスとして滞在することを契機に、人類発祥の地アフリカの大地を自転車で走りたいと思ったからだ。とは言え、簡単に辿り着ける地ではない。飛行機を2回の乗り継ぎ、24時間以上かかって首都ルサカに到着した。眩い光にサバンナの平原が広がる。

ルック車

出発する前から方々に尋ねていたものの、ルサカではレンタル自転車がない。ましてやシェアリング自転車もない。滞在したアート・ギャラリーの関係者も自転車を持っていない。そこでダウンタウンに出かけて市場を回った。いわゆるママチャリか子供用、それにルック車しかない。しかし贅沢は言っていられない。見た目で選んだマウンテン・バイクの価格は2,000クワチャ、約12,000円。

幹線道路

ダウンタウンから滞在先まで自転車で自力で戻る。Googleマップが示したルートは幹線道路で約20km。これはワゴン車に20人を詰め込む乗合バスMatatuで来た道だった。ラッシュ・アワーではないので、それほど混雑していない。部分的には自転車用のレーンや側道もある。ただし、露骨なバンプや陥没があるので油断大敵。道幅が狭く路肩がない箇所では、大型車にクラクションを鳴らされ、冷や汗が出る。

環境と気候

路上では頭と喉が痛くなる。これはクルマの排気ガスのせいだ。澄んだ青い空に騙されてはいけない。クルマの大半は日本から輸入した中古の内燃機関車で、騒音と黒煙を撒き散らしている。もっとも年間平均AQIルサカ39東京62北京163。つまり、東京は更に劣悪。なお、ルサカは南緯15度25分と沖縄より遥かに赤道寄りながら、標高1,300mに位置し、実は涼しい。乾季なので乾燥していて過ごし易い。

TOKYO WAY

交通量の多い幹線道路と並行するように、真新しく綺麗な舗装道がある。路肩に余裕があり、走り易い。しかも何故か交通量も少ない。これは日本のODA(政府開発援助)の一環で整備されたTOKYO WAY。世界覇権を狙う中国の一帯一路とは異なり、無償支援なので感謝されているらしい。もっとも大統領の私邸などがあり、要人警護のために物々しい雰囲気で、時には道路封鎖されてしまうのが難点。

郊外道路

市街地を離れると、交通量が減って走り易くなる。しかし市街地以上に緩やかだが長いアップダウンが繰り返される。軽量ロード・バイクではなく電動アシストでもないルック車に体力が削がれていく。しかも舗装道路ではない側道や脇道は乾燥した土埃が舞い上がり、喉や鼻を痛める。見かけだけのサスペンションは砂利や小石の凹凸を受け止めず、2回もタイヤがパンクしてしまう。

バンブー・バイク

ザンビアで期待していたことは竹製の自転車Zambikesだった。日本でも紹介され、販売されたものの、今では情報が途絶えている。WEBで調べてメールやメッセージで問い合わせても音信不通。滞在先のスタッフが方々に電話をしてもダメ。しかしダウンタウンで偶然に出会した。何と言う幸運。これで夢幻ではないことが分かった。フレームのパイプもジョイントも竹なのが美しい。

ルサカの自転車

このようにルサカで自転車に乗ることは必ずしも快楽ではない。高性能な自転車で高品質の舗装道路を好む怠惰な身体は、次第にルサカの路上が億劫になる。しかし、ここでは多くの人が大きな荷物を乗せてボロボロの自転車に乗っている。屈強でしなやかな人たちが乗る、働く自転車だ。それ故に滞在の終盤には再び自転車に乗っていた。社会基盤や生活環境に困難があるからこその自転車だ。

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