
私は空を飛ぶことはできない。軽やかに空を飛ぶ鳥たちを見て、空を飛んでみたいと思うことがある。しかし、そのようなことはファンタジーの世界でしか描かれない。私たちは翼を持っていないけれど、知性を働かせ何かを利用して空へ飛び立つことができる。
今回は、夢が詰まった「空を飛ぶ自転車」について考える。
『プロジェクトセカイ』というスマホのリズムゲームをご存じだろうか。ボーカロイドの初音ミクと様々な願いや葛藤を持った高校生たちが「思いのセカイ」を通じて出会い、音楽を通して成長していく、といったストーリーが展開されている。「思いのセカイ」は、スマホやパソコンの画面から行くことができる仮想空間のようなものである。ここで、ゲームに登場した楽曲『ステラ』(作詞・作曲:じん)のMVに登場する「空を飛ぶ自転車」を紹介しよう。

MVでは、女の子が、翼やプロペラを自転車につけて改造し、空を飛ぶという憧れを実現しようとする懸命な姿が描写されている。「空を飛ぶ」という非現実的なことを自転車で行おうとするのは、「無邪気な想像力」の現れであり、そこに若々しい活気が見られる。サビの部分では、女の子が全力で自転車を漕いでいるシーンがあるのだが、歌詞や曲と相まって疾走感と無敵さがある。
「空を飛ぶ自転車」といえば、映画『E.T』の自転車で夜空を飛ぶ有名なシーンや、ジブリ作品『魔女の宅急便』におけるトンボとキキがプロペラ付きの自転車に乗るシーンなどが思いつくだろう。しかし、どれもファンタジー的な力が働き、空を飛ぶ(浮遊する)ことができている。
では、現実的な視点から、MVに登場したような「空を飛ぶ転車」の仕組みを学んでみよう。

物体が飛行するためには、4つの力を考える必要がある。推力(前に進もうとする力)、抗力(進行を妨げて逆方向に進もうとする力)、揚力(上向きに引き上げようとする力)、重力(地面に引き寄せる力)である。推力を増すためには、プロペラによって後ろに空気を押し出す仕組みが必要である。また、流線形の翼をつけることで揚力をコントロールすることができる。翼の上側が膨らんでいて下側が平らな形の翼であれば、正面から風を受けた時に風の流れの速さが変わる。翼の周りには時計回りの空気の循環が発生し、上側は[「空気の流れ」+「循環した空気の流れ」]で流れが速くなるが、反対に、下側は[「空気の流れ」ー「循環した空気の流れ」]で遅くなる。ここで、ベルヌーイの定理を利用する。簡単な説明だと、流速が早ければ早いほど圧力が低くなり、流速が遅ければ遅いほど圧力が高くなるという性質である。つまり、上側の圧力が低くなり、下側の圧力が高くなることで、圧力差が発生し、物体を上に持ち上げる力が働くのだ。このような仕組みのもと、飛行機は空を飛んでいることが分かった。
『Honda DREAM LOOP AI』という、自身の夢を言葉で入力するとAIが「夢を叶えるモビリティの設計図」を生成するという企画があり、その中に「自転車のようにペダルを回すと空を飛べる1人用の乗り物」というものを発見した。生成された画像をみると、かなり空の上の方を飛んでいる。そして、ペダルで漕いで飛ぶような形には見えない。私としては、もっと『ステラ』やトンボの自転車のようなコンパクトさで、風を感じて空を翔けているような感覚が得られたら嬉しい。
しかし、今の私が色々考えたところで、専門的な知識を持った人たちが考えたものの劣化版となるだろう。MVで登場する空飛ぶ自転車は、大阪公立大学の「堺風車の会」によって作られた航空機に何となく似ているように思える。
「空を飛ぶ自転車」と飛行機やパラグライダーの違いはなんだろう。生活の身近なモビリティである自転車だからこその「日常性」か。自分の身体でペダルを漕ぐことで、どこにでも行けるというような気がする解放感だろうか。
もしも自転車で空を飛ぶことができたら、それが私たちの翼となるだろう。