Cycling Edge 41: 熊野

3月半ばに三重県の熊野市に出かけた。その理由は何と言っても熊野古道。1000年以上に渡って日本最大の霊場として幾多の人が詣でた参道であり、太古の長距離ネットワークだ。もっとも世界遺産ということもあって、自転車では走れない。しかし現代の道路も自然豊かな山間や海辺を巡ることは以前に体験していた。そこで古と今のエッジ(境界)を垣間見たいと思った次第。

熊野古道・松本峠

初日に熊野に着いたのがお昼過ぎ。何はともあれ熊野古道。旅程に近く、かつ短い区間であった松本峠道に入る。木漏れ日射す木立の中を苔むす石の階段が続く。急な傾斜が多く、不規則に並び、木の根が脈打つ江戸時代の石畳を苦労しながら登っていく。峠からは脇道に入って東屋城址を回り、さらに奇怪な岩場が続く鬼ヶ城へと至る。こちらも世界遺産の一部だ。

太平洋岸自転車道・熊野灘

翌日は自転車に乗って国道42号線に入り、南下する。これは太平洋岸自転車道の一部であり、道幅は狭いものの、青い矢羽が続いている。海が見える箇所は少なく、防風林が長く続くのが残念。やがてトンネルに入る直前で引き返す。ウミガメ公園七里御浜花窟神社木本隧道(鬼ヶ城歩道トンネル)獅子巌など観光気分で立ち寄る名所も多い。

木津路集落

3日目は山間の木津呂へ。路側帯のないトンネルが多いので近くの道の駅まではクルマで移動。そこからは6kmほどで集落に入り、河原に出る。蛇行する川に囲まれた楕円形の土地で、白い河原が緑を際立たせる。かつて林業と筏流しで栄えた集落、今は僅かな人が住む。途中にある嶋津の森や突出した半島部の景観も素晴らしい。近くには東洋一を誇った紀州鉱山の遺構や良質な湯の口温泉もある。

木津呂集落
北山川の半島
嶋津の森

熊野古道・浜街道

ふとしたことから国道42号線の防風林の中に道があることに気が付く。落ち葉が敷き詰められた最高のグラベルだ。防風林と海との間にある堤防もコンクリート道として走ることができる。これは熊野古道の浜街道で、25kmも続く七里御浜に沿っている。松本峠の展望台から見た美しい円弧がまさにそれだった。安全であり変化に富む。太平洋岸自転車道はこの浜街道を選ぶべきだったと思えてくる。

松本峠の東屋から見る七里御浜

津波避難タワー

ところで国道42号線沿いには、いくつか津波避難タワーがある。高知県の巨大施設と比べると小規模で、三階建のビルほどの高さだ。周囲の民家よりは高いとは言え、最初に通った時には気がつかなった。心許なく感じるものの、山や高台が迫っている地形からすれば十分なのだろう。それは津波浸水予測図からも伺える。あちらこちらに避難経路を示す標識も立っている。

大台町・宮川

熊野からの帰路は大台町の道の駅に立ち寄って自転車を降ろす。ちょうど熊野古道が横切る地点から、清流として有名な宮川の上流に向かう。30km先の宮川ダムを目指していたものの、食事処がないことに気がつき、途中で引き返す。往きの川の左岸(上流に向かって川の右側)道路は単調ながら、帰りに通った右岸の旧道はアップダウンやカーブが多く、より川に近く集落を抜けるなど変化があって楽しめる。

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