サイクリングが奏でる音楽:Sound of Cycling(4)

「サイクリングを音楽にする」プロジェクト「Sound of Cycling」制作過程記録の最終回。サウンド装置を自転車に取り付けて実際にフィールドで行った走行実験や、展示会での作品展示にあたって考慮した点などをお伝えする。

フィールドで走って鳴らした

机上実験を経て、装置を自転車に取り付け、実際にフィールド走行実験を行った。想定通り音を鳴らすことができるのか、そしてサイクリングの体験をより楽しむことができるのか——。

主な走行場所は、自宅周辺の住宅街と川沿いのサイクリングロードである。音を鳴らしながら走ると、少し怪訝そうにチラリと見る人もいたが、多くは特に気に留める様子はなかった。また、あまりに風の強い日は、耳に直接入ってくる風切り音が大きく、装置から出ている音(風音を増幅した音)が混ざって聞こえなくなるという問題も発生した。さらに、ミキシングの機能はないため、各出力音のレベル調整に苦労した。加えて、中古品やリリースされてから長期間経っているデバイスを使用しているため、PCやセンサーともにフル充電でも30分ほどしか稼働できない「バッテリー問題」にも直面した。

フィールド走行練習の図。少々ノイジー

このプロジェクトは、「サイクリングをもっと楽しみたい」という思いから始まったものであり、音を生成しながらの走行がどこまで心地よさをもたらすかを追求していた。タイミングによっては、一瞬、心地よいグルーヴが生まれ、まるで楽器を演奏しているような気分になることもあった(ただし、めったにない)。さまざまなシチュエーションを試すため、最終的には東京・丸の内のど真ん中でも走行し、音を収録した。

川沿いサイクリングロードでの走行。フロントフォークにiPhoneを括り付け撮影
丸の内から皇居の濠まで足をのばす

どう展示すれば伝わるのか

プロジェクトは「武蔵野美術大学 通信課程 卒業制作展(2023年度)」での展示を最終形態とした。どう展示すれば伝わるのか——。

本来であれば、実際に乗って音を鳴らして体験してもらうのが一番だが、会場の都合や安全面の問題から、それは困難だった。最終的には、システムを搭載した自転車本体を実際に音のなる状態でスタンドに立てて展示、後方にディスプレイ(iMac)とスピーカーを設置し、フィールド走行時に収録した動画と音声を流す形とした。当初は、筆者自身が説明員としてクランクを回し、音を鳴らすことを想定していた。しかし、設営を進めるうちに、やはり来場者に実際に回してもらう方が理解が高まると判断し、急遽、体験型の展示に変更した。なお、今回のプロジェクトでは、クロスバイク「Tokyo bike」とロードバイク「Bianchi Imola」の2タイプに装備して実験を重ねたが、展示ではフレームのロゴの主張が強すぎない「Tokyo bike」を使用した。また、クロスバイクのほうが、自転車の形態としても親しみやすいであろうという理由もあった。

本体画面にはオーディオビジュアライゼーションを表示
少しひいた図。後輪付近に「お回しください」のパネルを設置

卒業制作展は4日間開催された。連日終日立会い、ギャラリーの反応を観察していた。単純に「ペダルをつかんで回すと音が鳴る」というわかりやすさを楽しんでいただけたと思う。シンプルに「おもしろい」という反応もうれしいが、音自体に興味を持ってくれたり、「音楽」として受け入れてくれた方もいて大いに励みになった。

4日間の展示会が終了し、撤収後、そのまま装置を起動しフルボリュームでキャンパス周辺を何周か走った。開放感とともに実験時にはまだ感じられなかった「楽しさ」をようやく味わえた気がした。

コンセプトを実現するには、まだまだ及ばない点は多かったものの、自分なりにサイクリングと音楽の可能性を少しでも広げられたかなと感じている。ここで得た知見や発見はさらなる研究に活かしていきたいと思う。

展示で使用した動画

サイクリングが奏でる音楽:Sound of Cycling(完)

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