台湾では台北から日月潭を経て、最後は台中へ。高速バスで40分ほど。台湾の中西部にあり、人口286万人で台湾第2の大都市。ようやく晴れ間が広がり、寒さが和らぐ。台中駅の新旧駅舎を見た後、国立台湾美術館を訪れる。当代芸術館などもそうだったようにデジタル・アート系が多い。台湾の主要産業が電子部品や情報通信だからだろう。泣く子も黙るTSMCやFOXCONNなどを擁している。
その後、台中に本社があるジャイアント(Giant)のフラグシップ店まで、すでに慣れ親しんだYouBikeで向かう。平日の夕方だったので、交通量は多く、それなりに渋滞している。ただ、危険を感じることはない。ジャイアントでレンタルしたのはクロス・バイク型の電動アシスト自転車。性能は良いものの、大柄で重量があるのが難点。宿泊しているフロアまで小さなエレベータに押し込むのに苦労した。
翌日は市街地を軽く回った後、台湾のウユニ塩湖と呼ばれる高美湿地へ向かう。海岸に向かって幹線道路を直線的に進む最短コースを選択。雲が多いものの、明るい日差しに心が躍る。だが、すぐに不穏な気配が漂う。何しろ延々と上り坂が続き、常に向かい風に煽られるのだ。次第に体力が削がれ、気力も落ちていく。電動アシスト自転車でなければ、投げ出していたところだ。
後で知ったところによると、台中は盆地にあり、周りを山や高地に囲まれている。だから、台中から出ようとすると常に上り坂となる。そして台湾海峡を望む台湾西部は常に強い風が吹く。沿岸や洋上で風力発電が盛んに行われているほどだ。やがて港湾施設で見かけた黄色い巨大なタワーは、まさに洋上風力発電の基礎部分の構造体であった。
沿岸部にも風力発電機が何基も立ち並ぶ。白く精細な羽根がゆっくりと回るさまは美しい。ただ、自転車乗りにとって風力発電が盛んな地域は鬼門。追い風なら極楽に快走、しかしマーフィーの法則により必ず向かい風となり、地獄の苦行となる。ちなみに、今年2025年に台湾は原子力発電を撤廃する。すでに従来の原子力発電を賄って余りあるほどの再生可能エネルギー発電を行っている。
さて、目的であった高美湿地は広大な遠浅の海。観光客向けに木の遊歩道が遠くまで続いている。しかし、訪れた時は潮がもっとも引いているようで、黒い海底の泥が露出している。シオマネキなどの小さなカニがあちこちで動き回っている。もう少し待てば薄く潮が満ちて鏡張りの水面が現れるのだろう。もっとも風は強いし、日没には遠い。白いサギが泥に嘴を差し、餌を啄むのを見ながら、しばし休息。
帰路は少々遠回りながら起伏の少ないコースを選ぶ。大甲渓という川の近くだ。そう、自転車乗りが選ぶべきは山越えではなく川沿いだった。強かった風も和らぎながら追い風となり、田園を抜けていくのは楽しい。市街地になって潭雅神緑園道に入る。鉄道跡を利用した全長13.1kmの緑豊かな美しいサイクリング・コース。台北以上に台中の自転車道は充実している。
ところで、台湾で印象的だったのは街角の国旗オンパレード。何しろ台湾を主権国家として承認している国は僅かしかない。先端産業では突出していても、外交的には孤立しており、不安定だ。だから国家であることを声高に目ざとく主張せざるを得ないのだろう。メインランド・チャイナとチャイニーズ・タイペイ、国と国とのエッジ(境界)を強く感じざるを得なかった。(この稿続く…)