自転車建築(22)幻視の建築を載せる

今回は、2025年1月に名古屋で展示した「Bicycle Architecture : Sphere」を考察する。建築の視点や展示の振り返りから深めていくべき方向を掘り起こしていく。

作品概要

「Bicycle Architecture : Sphere」は第18回の記事で記述したように、エティエンヌ・ルイ・ブレー(Etienne Louis Boullée)の「ニュートン記念堂」(1784)を参考に制作した作品である。「ニュートン記念堂」は直径150mの球体の構造で、壁面に開けられた孔から外部の光が差し込み宇宙を彷彿とさせる内部空間を演出するという計画案である。

この空間構成を自転車建築に応用し、夜の街を走ることで地上の照明が球状の空間に星のように投影され、宇宙を想起させる視界がカメラに映り込む仕組みにデザインした。

ニュートン記念堂の断面図:天井に穴を開け人工の星空を作る構想
(wikipediaより)

職場から自宅までの帰り道を撮影した。およそ46分の映像作品である。

おすすめは1:50~2:30と39:00~41:00
youtubeで360°動画を見る
ドーム設計

「ニュートン記念堂」は滑らかな球体に近いドーム状の空間だが、本作では短期間での制作のため、近似的な球形で構成した。 リチャード・バックミンスター・フラー(Richard Buckminster Fuller)のジオデシックドームを参考にし、3DモデリングソフトのRhinocerosで三角形に細分化して球に近い構造を作成。ダンボール紙をレーザーカッターで切り出し、貼り合わせて制作した。

ドームのカットデータ

ドーム壁面の孔は、自転車走行時の光の取り込みを考慮し配置した。左右の建物から漏れる光、上部の街灯や信号の光、後方からの車やバイクの光を受け止め、内部空間に星を作る光を逃さない。

ドームに設けた孔の位置
展示の振り返り

名古屋の展示では部屋の壁面に映像を投影する形式を採用した。しかし結果的に展示方法は失敗であった。46分の走行記録を映像作品として鑑賞するにはしんどい絵面だったのだ。HMDで空間として体験できていれば、微細な光の動きもより味わい深く感じられたかもしれない。今後、同様の構造をもつ作品の展示に向けて、HMDでの鑑賞可能なシステムを整えていく。

幻視の建築(Visionary Architecture)

「ニュートン記念堂」を計画したエティエンヌ・ルイ・ブレーは18世紀当時、同時代のクロード・ニコラ・ルドゥー(Claude Nicolas Ledoux)、ジャン・ジャック・ルクー(Jean-Jacques Lequeu)とともに、”幻視の建築家”と呼ばれており、エミール・カウフマン(Emil Kaufmann)の著作「三人の革命的建築家 ブレ、ルドゥー、ルクー」(1952)によって近代建築の先駆的存在として認知されることとなる。

ブレーと同様に、ルドゥーやルクーも多くの実現しなかった建築計画を残している。彼らの構想は、当時の技術が追いつかなかっただけでなく、人々に理解されなかったのかもしれない。しかし、一般的な建築が私たちの生活を形作るのに対し、実現しなかった計画は、私たちの想像力を広げ、議論のきっかけを生む。

当時の建築家が思い描いた先見的なビジョン、構想した建築のエッセンスを自転車建築に応用することでその作品もまた、人類や建築の可能性を照らす指針となるかもしれない。

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です