娘と二人で出かける元日のサイクリングは、新年の恒例行事になりつつある。そのきっかけは2021年正月、新型コロナウイルス感染拡大によって多くの行事が中断される中、屋外であり、かつ一箇所に人が密集しないサイクリングならば実施できるだろうと考えたことだった。
[参考: https://criticalcycling.com/2021/01/newyear-newtype-group-ride/]
以来、正月には自転車を船に乗せて淡路島へ渡るのが常だったが、今年はあえて海を渡らず、本州側を走ることにした。「源氏物語」にゆかりのある海沿いの土地ということで、須磨や明石を目的地に選ぶのは最適に思える。昨年のNHK大河ドラマが源氏物語を題材にしていたことも記憶に新しい。近畿(畿内)とは、もともと首都を中心とした地域を指す言葉であり、奈良や京都が都だった頃、須磨・明石は当時の“中心”から見れば西の端に位置する土地だったのだ。
須磨と明石の中間にある垂水(たるみ)は、その名の由来とも言われる滝や丘陵地が広がり、対岸の淡路島を望む景勝地として知られている。ところが、そんな風光明媚な海沿いに、昨年オープンしたばかりの大型アウトレットモールがある。今回の新年サイクリングの目的地は、この新しいモールに定めた。
「元日のサイクリングの行き先としては、どうにも面白みに欠けるのでは?」と思う人もいるだろう。しかし元日には、多くの店や飲食店が休業している。正月サイクリングの目的地である店が閉まっていて、せっかくの楽しみが台無しになったことは数知れない。その点、アウトレットモールは元日から営業しているため、目的地が“休み”という不測の事態に見舞われる心配が少ない。
オープンして間もないモールとあって、きっと正月から多くの人で賑わうに違いない。もし車で行けば、行きも帰りも交通渋滞に巻き込まれ、駐車場や出庫の待ち時間だけでぐったりしてしまうだろう。電車も混雑が予想される。だからこそ、自転車で行くサイクリングが最適なのだ。混雑を避け、気ままに移動できるというメリットは大きい。
近年、よく目にするようになった食べ物に「カオマンガイ(海南鶏飯)」がある。茹でた鶏肉の出汁で炊いた米が主役の、タイやシンガポールでは屋台料理としても親しまれる一品だ。寒風の中を走るサイクリングの補給食としては、タンパク質が豊富な鶏むね肉と、炊き込みごはんの糖質を一度に摂れるため相性が良い。さっぱりした味付けも、サイクリングで走る途中で食べるのにちょうどいい。
元日の陽光が差す垂水の海岸線は、対岸の淡路島で流れるのんびりとした時間とは対照的に、ショッピングモールの賑わいに包まれている。車で訪れた人々で駐車場は満車状態だが、自転車置き場には私たちの2台だけ。豪華な正月料理からはやや離れた、気軽な食事とデザートのひとときが、今年も長閑に過ぎていく。
私が通う自転車店の店主は、ご自身の娘が14歳になるまで一緒に走っていたそうだ。私の娘は今年で15歳。もし来年の正月も、今回と同じような文章を綴っているのなら、ひとつ新しい「記録」を更新したことになる。無論、16歳以上の子どもと元日サイクリングをしたことがある方がいれば、ぜひ申し立てていただきたい。特に“独占的な名誉”というわけでもないし、異議がなければ私が勝手に名乗るだけのことだ。
年齢を重ね、世代を重ねていくということはどういうことなのだろう。年をとるにつれ、誰かと自転車で出かける機会は少なくなるのだろうか。行き先ややることは、その時々で変わってもいい。ただひとつ、正月に自転車で出かけるという形だけが、私の中では“伝統”として残り続けている。
親子が自転車に乗ることだけが世代間の交流ではない。年末年始に新幹線や飛行機、あるいは車で出かけたり、あるいは故郷へ帰省したり、多世代がそろって初詣に行ったりすることも大事な“形式”として長いあいだ続いている。
だからこそ、もし将来「正月に、大人世代と子ども世代が自転車を連ねて出かける姿」が当たり前の光景になったらどうだろう。私は年ごとに、同じような道のりを少しずつ積み重ねていくだけだ。まるで藁を寄り合わせ、縄を綯っていくように。