シマノが企画する「ソーシャル×散走」企画コンテストが毎年開催されている。学生を対象として、自転車に乗って社会課題に取り組む企画を募集し、発表し共有するコンテストだ。馴染みのない「散走」という言葉は、散歩をするように自転車に乗ることらしい。また「ソーシャル」は直接的に社会課題を意味しないので、悩ましいタイトルではある。応募サイトでは以下のように説明されている。
21世紀を迎え、モノや情報があふれる現代社会は環境、経済、人口、文化など様々な分野で社会的な課題を抱えています。また一言で社会課題といっても、地域や状況によってその形は様々です。
「ソーシャルx散走」企画コンテストとは、散走※を通した社会課題に取り組む企画を学生から募り、発表・共有するコンテストです。
わたしたちはこのコンテストを通じて、散走がより良い社会の形成に貢献することを目指します。
「ソーシャル×散走」企画コンテスト
※散走とは…日常の中の小さな気づきや出合いを見つけに、散歩のようにゆったりと、気の向くままに自転車を走らせる楽しみ方
このコンテストに2024年度はIAMAS(情報科学芸術大学院大学)から佐藤杏南と志村翔太が参加した。二人ともクリティカル・サイクリングのレギュラー執筆陣であり、日頃から自転車に乗る中で感じたことが契機となっている。アイディアはシンプルで、通常は徒歩で行うゴミ拾いを自転車で行うとどうなるか?という問いであった。
このアイディアを夏と秋に実践したところ、思いがけず多くの発見があり、様々な観点からの検討が求められる有意義な取り組みだと感じられたようだ。筆者は学生でないので、撮影などの側面的サポートを兼ねて参加。普段は見過ごしていた街の有様に気づくことができた。そのような経緯で何度かの議論を重ねて「私たちの街を綺麗に!ゴミ拾い散走!」という企画が提出された。
今年度は26の企画が応募された中から、大阪府堺市のシマノ自転車博物館で行われた最終審査会で6つの企画が発表された。IAMASからは志村が交換留学生として海外渡航中であったで、佐藤が一人でプレゼンテーションを行った。結果としては入選にならなかったものの、他の企画の様相やコンテストの傾向を窺い知る良い機会になった。
そもそも自転車部品の製造メーカーであるシマノの主催だから、根底となる目的は自転車の販売促進だろう。それも散走やソーシャルという観点からはハイエンドではなく、エントリー向けであることが伺える。実際にも、毎日のように自転車に乗っている参加学生は少なく、まったく乗っていない学生も何人かいた。つまり、自転車の裾野を広げることにコンテストは成功している。
ただし、自転車に乗らずに考えた企画であれば、それは悪い意味でのヘッドワークに過ぎない。社会課題に重きを置き、自転車の必然性が希薄と感じることも多かった。穿った見方をすれば、表面的なビジネス提案書のようでもあった。幾多の実践の積み重ねとして結実した企画こそが意義があると思えてならない。このことはIAMASからの企画についても問い直す必要がある。
一方で、散走とは「散歩のようにゆったりと、気の向くままに自転車を走らせる楽しみ方」とされている。となると、幾多の実践の積み重ねを求めることには無理があるのかもしれない。また、ほとんどの企画が特定のコースや行為を強いており、気の向くままに自転車を走らせることは難しい。さらに相応の準備や装備が必要であり、気軽さには程遠いことも気になる。
このように考えると、このコンテストは少なからず矛盾を孕んでいるのかもしれない。ただ、その矛盾は自転車の多様性ゆえでもある。何らかのエッジ(限界)があるとは言え、自転車の適応範囲は極めて広いからだ。となると、自転車で気軽に社会解題に取り組むこととは、クリティカル・サイクリングが提唱する自転車の楽しみ、シンプルさ、そして発見性にも通じるように思える。今一度考えてみたい。