サイクリングが奏でる音楽:Sound of Cycling(2)

”サイクリングを音楽にする”という発想から始まったプロジェクト「Sound of Cycling」。このプロジェクトは、サイクリングを単なる運動としてではなく、聴覚的にも楽しもうという試みである。制作過程記録の第2回目。

何を拾うか

サイクリングに体験を“音”に変換し、さらに“音楽”にしていくにはどのような要素が必要なのか。「何を持って音楽となし得るのか」を考えつつも、まずはサイクリングを表現するための音の構成を考えた。これは同時にサイクリング中に起こる現象を整理する作業でもあった。

動作
ペダルを踏む
クランクを回す
ハンドルバーを握る
ハンドルを操作する
ブレーキレバーを操作する
ギアチェンジをする
体重を移動させる
周囲を見回す

状況
平坦
上り下り
舗装道路なのかダートなのか
追い風向かい風

そしてそれぞれに、速い遅い、ゆるいきつい、強い弱い、などのパラメータの変化が加わる。
それらから何をピックアップし、何を変化させることでサイクリングを表現できるのか。

まず取り上げたかったのは「風」である。ときに前にはだかり、ときに背中を押してくれるあの「風」だ。全サイクリストにとってよくも悪くも縁深い「風」の要素を取り入れたいと考えた。シンプルに自転車にマイクを取り付け、拾った音を増幅することも考えたが、それでは単なる「拡声器」である。そこで、風の強さ(=走行時に自身が受ける空気の強さでもある)に応じて、音を変化されられないか考えた。

風の動きとともに、人間の動作も音楽に取り入れられるべきだと考え、次に検討したのは、「漕ぐ」–つまり足の回転である。ペダルを踏み、クランクを回すことは自転車の推進に最もリンクしている。軽いギアでクルクル回すときも、重いギアで踏ん張るときもその動きに合わせてビートを刻めないかと考えた。

仕組みをどうする(ハード、ソフト)

当初ペダルに取り付けるセンサーとして「M5Stick」、本体に「Raspberry Pi」など、自転車本体に搭載することからもできるだけ小型軽量なシステム構成を構想していたが、技術的な問題から、より汎用性がある(というより手元にすでにあり、技術的ハードルも高くない)もので進めることにした。その結果が下記システム構成である。

センサー:Apple iPod touch(第6世代)
アプリ:ZIG SIM (iPod touchのセンサーデータを取得)
マイク:外付けコンデンサーマイク+オーディオインターフェイス
本体:Windows PC(10inch タブレット)
開発環境:TouchDesigner
通信:ポケットWiFi(レンタル)
スピーカー:PC用ポータブルスピーカー

センサーとしての「iPod touch」と「ZIG SIM」、「TouchDesigner」の組み合わせは、以前別プロジェクトで使用したことがあり馴染があった。TouchDesignerはノーコードで音声、映像を制御できるビジュアル開発プラットフォームで、筆者のようなコードを書くのが不得手な人間にぴったり。Windows PCはPanasonicの「Let’s note」。おそらく法人向けであろうPCの中古落ちが2万円ほどと安く販売されていた。タッチパネルでディスプレイが回転しタブレットとして使えるタイプ、しかも軽量で頑丈と、自転車に搭載されるとは想定外であろうがまさに今回の作品向けであった。決してハイスペックではないがTouchDesignerが動作するギリギリのスペックといったところであった(後に作品自体の寿命を定める要因となった)。

ちなみに今回使用したPC用ポータブルスピーカー(エレコム製)は、ボトルケージにジャストフィットであった。

スピーカー

主なハード、ソフトの構成は揃ってきた。あとは音の作り込みと走り込みである。実装、実奏、実走。

(次回に続く)

2 comments

  1. いよいよ核心に迫りつつあるようで楽しみです。PCなども搭載とのことで全体像が気になります。あれば次回にでもお願いします。

    1. コメントありがとうございます。
      次回、画像も交え全体像をより詳細にお伝えできればと思います。

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