本連載は建築と自転車を組み合わせた表現を通じて建築の静的なイメージを覆し、建築と移動が持つ新たな可能性を探求している。引き続き、自転車、光、造形的な模型・物体の相互作用に焦点を当て、どのような表現が可能かを探る。
前々回から引き続き、門田家の部屋を模型化し、自らの生活空間に風景の映像を重ね合わせる手法の実現を目指す。
第15回の記事で試みた表現では、ドアの覗き穴から差し込む映像が玄関からダイニングルームに届かなかったため、今回は玄関に焦点を絞ることにした。玄関を実測し作成したモデリングデータを基にレーザーカッターで部品を切り出し、模型を組み立てた。外観は余った段ボールを切り貼りして隙間を埋めたり、補強しているため、やや乱雑な仕上がりとなっている。
玄関部分を拡大し、繊細な凹凸を加えることで、光が生む陰影と空間のディテールを強調し、より現実感のある空気感を演出した。また、模型は無彩色にし、映像による空間の彩りを際立たせる構成とした。これらの操作は、光と影の微細な変化や模型の質感が際立ち、映像の動きと空間の静寂が絶妙に交錯する効果を狙っている。
考察
暗い映像と明るい映像時はそれぞれ異なる味わいがある。
3つの映像の中で、並木沿いの道を走行した映像が特に印象的だった。当初の狙い通り、光と影の微細な変化や模型の質感が際立ち、映像の動きと空間の静寂が絶妙に交差する効果を実現できたのではないか。最後の明るい映像はややチープに感じた。薄暗い空間に映像を投影し、空間の輪郭を際立たせる表現が、より効果的に感じられる。
課題
今回の検討で、3つの課題が明らかになった。
1つ目は、空間が硬く感じられたこと。レーザーカッターで切り出した制作方法に原因があると思われる。表面に細かな加工を施し、床のフローリングや壁面の壁紙などの質感を表現することで柔らかい印象を与えられるかもしれない。
2つ目はカメラの位置。カメラの影が映り込むのを避けようとカメラを低めに設置した結果、玄関の空間性が十分に表現されなかった。カメラを空間の中央に設置するためには、複数方向からの光源で影を避けるなどの工夫が必要だ。
3つ目は、自転車の存在感が感じられない映像になったこと。自転車の音が弱く、さらに妙な雑音が加わり、音と映像の調和が崩れている。自転車らしさを強調するために、外付けマイクで自転車の走行音を拾うなどの対策が必要である。
以上から、今までの自転車建築で制作してきたものとは異なる、新しいアプローチが求められている。
単なる感想で良し悪しではないのですが、細部が加わって暗くなったせいか、恐怖映画や災害記録のように感じました。普段は意識しない自転車の振動も強く感じますね。
コメントありがとうございます。
赤松先生の神戸での震災体験が影響しているのかもですね。具体的な造形物があると、鑑賞者の経験や背景に触れ、場合によっては負の感情を呼び起こす可能性があるということですね。本作はそのような感情の喚起を狙っているわけではないため、ちょっと検討の方向性を再考しようと思います。