予定していなかった吉備路自転車道を走ったのは、前日にSETOUCHI CYCLING BOOKをいただいたからだった。これはSetouchi Véloのパンフレットで、瀬戸内海に面する9つの県が連携してブランディング中のサイクリング・エリアが紹介されている。比較的新しい取り組みであり、シンプルでクリーンなデザインが好印象。オンラインの時代にあって紙の印刷物の在り方を提案する姿勢もうかがえる。
表紙をめくると見開きで大きく瀬戸内の地図が現れる。幾つものカラフルなサイクリング・コースに記号番号が添えられている。この地図でグラフィカルに全体を俯瞰することができる。もっとも地名は記載されておらず、現在位置もわからないので、地域に詳しくない筆者は途方に暮れてしまう。色分けや記号は県を示しているので、一般の利用者には意味をなさない。
続くページからは両端に県を示すタブが付いている。地図での色を頼りにコースを探すのだろう。それぞれのコースは名称、写真、説明、そしてQRコードを含むセルがグリッド状に並んでいる。つらつらと眺めて気になるコースがあれば、地図に戻って位置を確認したり、QRコードをスマートフォンで読み取って詳しい情報を閲覧するのだろう。
QRコードでリンクされているWEBページは、パンフレットと同じ写真や説明に加えて、Open Street Mapによるコースの地図、Stravaへのリンク、Garmin Connectへのリンク、そしてGoogleマップでの利用を想定したのであろうGPXデータのダウンロードが並んでいる。4種類ものデータを扱わざるを得ないのは、なんともやるせない。しかし、シンプルにデータだけを提供しているのは好印象。
つまり、SETOUCHI CYCLING BOOKは簡潔なインデックスを提供しており、全体としてサイクリング情報のプラットフォームを目指している。Setouchi Véloには現時点で108ものコースがあるので、それは妥当なポリシーに思える。そうでなければ分厚いガイドブックを作ることになりかねないからだ。さらにSetouchi VéloのWEBサイトも同じ構造になっており、一貫性がある。
ところで、QRコードは不便極まりない。iPhoneならカメラを開いてQRコードに向け、認識された部分をタップするとSafariがWEBページを表示する。他のQRコードを読み取るにはカメラに戻る。これを何度も繰り返すのは苦痛だ。そこでQRコードを認識すればオーバーレイでWEBページを表示するアプリを作成した。そのままカメラを動かせば次々とWEBページが表示される。
これでストレスなくSETOUCHI CYCLING BOOKを閲覧できる。これこそ本来の姿であり、Setouchi Véloが提供すべきだろう。しかもそれは難しいことではない。生成AI、Claude 3.5 Sonnet + Artifactsに指示するだけで、必要なコードを生成してくれるからだ。これが望み通りに動作するのだから、見事としか言いようがない。多少の不備や使い勝手の改善のために、何度か修正指示を行うのも楽しい。
他にも、表紙の写真には暗澹たる気持ちになるし、行政の集合体らしい悪癖も見え隠れする。PDFが配布されていないのも不可解。とは言え、SETOUCHI CYCLING BOOKは今日的なサイクリング情報の在り方を示している。それはリアル(冊子)とヴァーチャル(WEBページ)のエッジ(境界)を取り除くことだ。つまり、ヴァーチャル(ブランド)をリアル(サイクリング)に実体化することに他ならない。