自転車建築(16) ワークショップ

8/24(土)に岐阜県大垣で自転車建築キットを用いたワークショップを行った。

メディアアートの楽しさを広めることを目的とした、全4回のワークショップのうちの1回を担当した。

概要

このワークショップは、写真の原点である「カメラオブスクラ」を作成し、身近な風景を新しい視点で捉えることを目的としている。初期のカメラオブスクラは巨大で、暗い部屋やテントに映像を映し出すものだったが、今回のワークショップでは、小さな箱を使い、屋外の風景を空間に映し込むことで、身近な風景を新たな視点から体験できるようにした。ただし、このワークショップで使用したキットは、筆者が大学院時代から展開している「自転車建築」から派生したもので、一般的なカメラオブスクラ体験とは一味違う内容となっている。

タイトルを決める際に「自転車建築」という言葉では内容がわかりにくく、参加者が集まりにくいと考え、「カメラオブスクラ制作体験」というタイトルにした。

準備

ワークショップに向けて、キットのクオリティを高めるため、パッケージデザインや説明書の作成を行った。パッケージの表紙イラストは知り合いの漫画家に制作してもらった。

illustration:yuho sakamoto

自転車建築キットに関する記事ではキットのタイトルを「your living home」としていたが、ワークショップに向けてキットをブラッシュアップする中で、本キットの本質は「動くこと」にあると再認識し、一般に共有する際にはそのメッセージの方が伝わりやすいと判断して、「moving home」というタイトルに変更した。

イラストには4本の足と尻尾が生えた犬のような家が描かれているが、これは筆者が指定したものではなく、キットを体験した漫画家が自ら描き上げたものである。彼女は「犬になってしまった」と語っていたが、このイラストは「動くこと」をうまく表現しており、さらに「動くこと」が本質であるならば、自転車でなくても良いのではないかという「moving home」の今後の展開を示唆しているように感じたため、採用することにした。

組み立て説明書

当日の進行と内容

ワークショップの最初に、講師である筆者が簡単に自己紹介を行い、「自転車建築」から派生して生まれたキットの背景について説明した後、参加者と一緒にキットの制作に取り掛かった。

パッケージングされたキット
キットの各パーツはレーザーカッターで切り出し済み
ワークショップ風景
組み立て中
組み立て完了
参加者が作成したmoving home

組み立てが終わった後は、色鉛筆やペンを使ってそれぞれの「moving home」をデザインしてもらい、その後、外に出て各自で様々な映像を撮影した。

moving homeはスマホを取り付けて映像を撮影する

スマホ越しに見える映像に歓喜。

自転車に取り付けて映像を撮影

小一時間ほど様々な場所の風景を採集してもらった後は、各自で撮影した映像の鑑賞会を開いた。

各参加者が撮影した映像を鑑賞

以下の映像は参加者が撮影してくれたいくつかの映像からの抜粋である。

最後に、各参加者から今日の体験を通じて得た感想を述べていただき、ワークショップは終了した。

成功と課題

成功した点

参加者からはポジティブなコメントを多くいただき、プリミティブな映像体験を提供できたことに成功したと感じる。また、自転車建築から生まれたキットであるため、屋外での撮影を推奨していたが、意外にも屋内で撮影した映像の方が新しい映像表現を感じられたという新たな発見があった。

課題と反省点

タイトルを「カメラオブスクラ制作体験」としたことで、本格的なカメラオブスクラを制作できると期待して参加された方もおり、誤解を生む情報発信になってしまった点が反省点である。

また、キットの形状に不備があり、説明書の分かりやすさも改善の余地があると感じた。加えて、キットの紙質がボンドの汚れを目立たせてしまったことや、組み立て時の机の養生やボンドを塗るためのヘラの準備が不足していた点も課題として挙げられる。

さらに、各自が撮影した映像の鑑賞会において、体験そのものが重要であり、映像に良いも悪いもないと考えてあまりコメントをしなかったが、後から各映像に対してコメントをすべきだったとの指摘があった。これも今後ワークショップを行う際には改善する。

今後の展望

本ワークショップの目的である、メディアアートの楽しさを広めるという狙いは達成できたと考えている。

個人的に大きな学びとなったのは、屋内で撮影した映像の面白さである。屋内の照明の形状やレイアウトが抜き出され、箱の中に光の模様として彩られる映像は非常に興味深かった。光の模様から撮影場所を想像し、答え合わせをするような感覚が得られたことも、大きな発見である。

これは、自転車建築が喚起する記憶とは異なる、新たな魅力である。キットは自転車建築の派生であるが、サイズの縮小や360°カメラからスマホへの変更により、建築的要素が薄れ、空間体験というよりも、スマホのフレーム内で展開される平面映像に近いものとなった。記憶の共有という当初の目的からは離れたが、ワークショップを通じて得た成果として、キットの新たな方向性が見えてきた。今後は、様々な屋内空間での撮影に挑戦したい。

最後に、本ワークショップを企画し、準備してくださった方々、そして参加してくださった皆様に心よりお礼を申し上げる。

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