キャンピング・カーのような本格的な車中泊でなくても、クルマのなかで仮眠できると嬉しい。例えば、早朝から自転車をクルマに載せて遠方に出かけ、夕方までサイクリングに興じたとする。そんな時は体力を使い果たし、注意力も散漫になっている。運転をして帰路に就くのは危険だ。そこで短時間でも仮眠を取り、疲労が回復してから運転する。結果的に自転車のエッジ(限界)を広げることになる。
クルマの中で手軽に仮眠を取るには、シートをリクライニングすれば良い。テスラ(TESLA)のモデルY(Model Y)なら、フル・フラットではないものの水平に近い角度まで倒せる。シートを後方に動かせば足も伸ばせる。飛行機で言えばエコノミーより寛げて、ビジネスには少々及ばないといったところ。ちなみに後部座席はまったく動かないので、リクライニング・シートでの仮眠は前席のみとなる。
その後部座席を前に倒して畳むと、リア・トランクと合わせて広い空間になる。横幅は狭いところで95cm、広いところで135cm、奥行きは180cm以上ある。ざっとセミダブルほど広さだ。もっとも高さは80cmほどしかなく、座った状態で上半身を起こすと天井に頭が付いてしまう。それでも横になるには困らないし、天井は全面ガラスなので開放感がある。
この後部スペースは、そのまま寝転がって仮眠ができる。とは言え、少しはクッションが欲しいので、AliExpressでエア・マットを取り寄せてみた。付属するインフレータ(電動空気入れ)を使えば数分で広がり、後部を覆う広大なベッドが出現する。ただし、海水浴のエア・マットと同じ作りで、身体の沈み込みが大きく、必ずしも寝心地は良くない。テスラ全機種対応と大雑把なのも可笑しい。
寝心地としては、これまで自転車マッティングとして活躍してきたNEMO equipment社のTENSOR Regular Mummyが秀悦。小さなセルを繋いだバッフル構造なので過度に沈み込まないからだ。厚さ8cmと薄目なのも気にならない。ウルトラ・ライト系の機材で、軽量で嵩張らない。ただし、幅が51cmと狭く、寝返りを打てないのは窮屈に感じる。
さらに快適性を求めてコールマンの厚さ10cmのインフレータ・マットを導入。空気中注入式ながら圧縮ウレタン・フォームが入っているので、身体が沈み込まない低反発性が心地良い。一般的なベッドに近い寝心地で、幅も68cmと余裕がある。いざとなれば、これで数日寝ることもできそうだ。もっとも構造的に空気を抜いて畳むのは一苦労。収納サイズが大きいのも難点。
普段は山小屋のベッドとして使っているヘリノックスのコットも悪くない。これまでに紹介した空気注入式とは違い、アルミ・パイプで布シートを張り、身体を浮かせて支える構造。こちらも身体が過度に沈み込まないので、寝心地は良好。ただし、シート面は15cmほどの高さなので、天井まではやや狭くなる。また、パイプ部を除くと幅は60cmほどで、こちらも少し狭く感じる。
それぞれの収納サイズを比べるとNEMOの慎ましさが際立つ。ただ、一番大きなコールマンでもトランク下の荷室やフランク(前方の荷室)に入る。空気を入れたり、組み立てたりするのは、それほど難しくない。空気注入式は口径が異なっていてもAliExpressのインフレータが使えた。ただ空気や芯棒を抜いて畳むのは、いずれも苦労する。空気を完全に抜いて丁寧に畳む必要があるからだ。
さらに枕や寝具も重要だ。AliExpressのマットに付属する小さな空気枕はオマケ程度で、他は枕は付属しない。そこで山小屋で使っているISUKAのノンスリップ・ピローを流用。適度に硬く中央が凹んでいるのが良い。また、今は夏なので薄手のシーツやタオルケットを使っている。これが冬になれば、保温性の高いシュラフが必要になりそうだ。かくして車内はますますキャンプっぽくなる。
さて、初心に戻って自転車との共存にも触れておこう。いずれも一人での行動なら傍に自転車を置けそうだ。しかしBromptonは余裕で置けるものの、ロード・バイクはギリギリ、嵩張るマウンテン・バイクは無理だった。二人となると後部全体を寝具に使うので、まったく自転車は置けない。ここは日本未発売のトゥとヒッチ・ラックが欲しい。いや、CyberTruckの日本発売を願うべきだろうか。
日本未発売と言えば、アメリカではモデルY用のエア・マットレスが発売されている。3インチ(7.62cm)で高密度フォーム充填とのことなので、コールマンのマットに近い快適な寝心地が得られるに違いない。しかも純正だけあって後部スペースに隈なく敷き詰められるのは圧巻。仕上げはテスラのキャンプ・モードだ。サブ・ウーファーと13個のスピーカーで静寂を聴こう。
【追記】本記事公開後に「Model Y エアーマットレス」が日本でも購入可能になっている。(2024.08.24)