Cycling Edge 11: 吉備路自転車道

梅雨だから当たり前とは言え、今年は妙に雨が多い。そんな6月下旬、梅雨の合間に嘘のように綺麗な晴れ間が広がった。場所は岡山、さすが晴れの国。時は朝、所用での移動中ながら半日ほど時間の余裕があった。しかもテスラ(TESLA)にはBromptonを忍ばせている。これは走るしかない。調べると近くに吉備路自転車道があることが分かり、備中国分寺の駐車場から岡山市街地に向うことにした。

この自転車道は、瀬戸内地域を世界的な自転車地域にすべく整備が進められているSetouchi Véloのひとつ。それだけに自転車走行環境の素晴らしさは走り出してすぐに感じる。自動車道路から完全に離れた自転車専用道路は安全で路面も滑らか。直線が多く、適度なカーブや交差もある。しかも方向や曲がり角を示す立て看板や路面矢印も多い。これならルート情報に頼らず、路上サインだけで走れるに違いない。

吉備路自転車道

しかし、やがてサインが見当らなくなる。曲がり角を見落としたのだろうか、ルートから外れたらしい。一度は勘に頼って復帰したものの、また間違えたようで交通量の多い幹線道路を嫌々ながら走る羽目になる。スマートフォンでルートを確認するのは安易過ぎるので、五感を総動員して道を見出そうとする。そうこうするうちに、小さな川沿いの道に出くわした。迷える子羊が光を見出した瞬間だ。

吉備路、迷走中

日本ではほとんどの地域でそうであるように川沿いの道は素晴らしい。特に平野部では高低差がなく、なだらかで走り易い。自動車も多少は走るものの、むしろ自転車をよく見かける。先ほどの吉備路自転車道より多く見かけるのは。生活道路であるからだろう。この道の心地良さに心躍り、南下して海まで行くことにした。海まで何キロか知らないけど、日が高くなる頃に引き返せば良い。

川沿いの道

こうして川幅が広まり、堤防の向こうに海らしき広い水面が見えるようになる。折りしも通り過ぎたセスナ機の来し方を辿り、小さな空港に至って終着点とする。後で調べると辿ったのは笹ヶ瀬川で、桃太郎の桃が流れてきた川だった。辿り着いた児島湾一帯は戦国時代からの干拓地。旧岡山空港の岡南飛行場は、現在は小型機が発着するらしい。何気ないライドであっても、楽しい遭遇がある。

河口付近

帰路は出発地に辿り着かなければならないので、時折スマートフォンを見ながら走行する。途中の笹ヶ瀬川で吉備路自転車道のサインを見つけて驚く。往路でも対岸を走っていたら気付いていたはず。気を取り直してルートを辿ろうとするが、やはりまた見失ってしまう。これは筆者が注意散漫だからだけではない。どうも吉備路のサインは控えめ過ぎるようだ。これは景観を乱さないためだろうか。

吉備路自転車道の路面サイン
設置場所は曲がり角より距離があり、方向情報は先端の僅かな部分だけ

また、観光名所を繋ぐようなルート設定に無理があるかもしれない。例えば、桃太郎ゆかりの吉備津彦神社は境内を軽く回ったものの、もうひとつの吉備津神社は人の多さに閉口して早々に退散した。一方で興味を持っていた造山古墳はルートにないので、かえって迷ってしまった、そして川沿いがそうであったように、何気ない道も魅力に溢れている。つまり単純な価値観ではないルート設定の難しさがある。

造山古墳

さらにルート自体も変則的な箇所があり、迷い易い。既存の道を整備し、交通量の多い箇所を避けた結果かもしれない。思い出すのはSetouchi VéloのモデルとなったEuroVeloフィンランドのアーキペラゴでは時折スマートフォンで現在位置を確認しただけだった。道路標識も少なかったと思う。初めての異国の地ながら迷わなかったのは、自転車道路が間違いようがないほど明確だったからだ。

フィンランドのEuroVelo

先進地であるヨーロッパと比べるのは酷かもしれない。失われた30年間、既存の価値観にしがみつくだけだった此の国は、ようやく発想の転換を始めたばかり。だから、Setouchi Véloの取り組みは素晴らしい。国土交通省の認定制度はPR効果しか謳っていないのに対して、瀬戸内では地域作りを目的にしている。それは線と線が繋がってエッジ(境界)を広げ、地域全体の底上げとなるに違いない。

EuroVelo(左)とSetouchi Vélo(右上)のルート
(日本と欧州本土との比較を参考に同程度の縮尺で並べた)

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