旅行前に計画した日程によれば、3日目である今日に金沢を出発して、新潟の直江津に到着する予定だった。しかしながら初日と2日目ともに、道中の様々な要因により十分な距離を走行できず、本来の目的地まで辿り着くことができなかった。
現在地は福井県福井市米松、予定していた全工程470kmに対して130km、36%だ。
5日目の晩には新潟を出発して大垣へ帰る必要があるため、昨日の晩にこれからの旅程について相方と、後ほど合流する塩澄・森田と話し合った。そして、自転車旅行の最終目的地を新潟から金沢に変更し、金沢から新潟までは車で行くことにした。以上が今までの顛末である。(大垣〜新潟470kmロングライド道中編1日目・2日目参照)
ネットカフェから最終ゴールの金沢駅まではおよそ80kmだ。
ネットカフェを出発したのは9:30。
出発前に朝食を取らなかったので、道中で見つけたマクドナルドで朝食をとった。
マクドナルドを出発し、街を抜けて山に近づいて行くと、徐々に雲行きが怪しくなってきた。昨日の雨により、僕たちの雨に対する恐怖は増している。そうしているうちに霧雨状の雨が少し降り出す。僕たちは、これ以上強くならないでと祈りながら漕ぎ進めた。
雨はすぐに止み、青空が顔を出し始める。視界の奥には風力発電のタービンが立ち並ぶ。風力発電は騒音やバードストライクなど様々な問題を引き起こす原因となるが、こうした動く巨大人工物が風景の大きなスケールの一部として存在する風景は見慣れないため、僕たちの目には少しピクチャレスクな風景として映った。
北潟湖沿いを走り抜け、月うさぎの里でトイレ休憩をした。月うさぎの里は山登りの中間地点を少し過ぎた所にある。昨晩に傾斜の少ない道を走るルートを選んでおいたおかげで、特に負荷を感じることなくスムーズに山を越えることができた。
昨日の雨とは違い、空が晴れていることに有り難みを感じつつ、その一方で青い空と生い茂る木々とアスファルトの変わり映えしない風景には飽きてきていた。
そんな気持ちで加賀市小塩辻町の県道20号を走っていた時、相方が何かを見つけた。
自転車で過ぎ去る景色の中で、不思議なものを見つけた。縛られているぬいぐるみだった。天気の良い日には不釣り合いで、ぐるぐるに縛られて汚いぬいぐるみを見つけた。
「こわっ!」それが第一声だった。しばらく見つめる中で事故にあった子供を慰めるために縛ったんじゃないかなどと勝手に物語を想像し始めた。そう考えて、ありとあらゆる街の異物(今回のようなぬいぐるみやちょっと不思議な置き物)を想像するようになった。自転車で走ってる中で僕と相方は、いろいろなものを見つけては、なんだこれ?!っと話していた。しかし長い距離を移動する中で、様々なものをみる。
そこには誰かが何かを置いて、少なからずの思いを持ってものを置く、自転車で通るだけでは「なんだこれ!?」その一言で片付けてしまうが、その場所での物語が存在することを知った。そう考えると今まで過ぎてった、よくも分からないものもきっと誰かが思いをもとに置いているんじゃないかと想像した。そう考えてペダルを踏み込む、風がなびく、何かを通りすぎて物語を想像する。
「見飽きたわ!この景色!!!」僕は相方にそう叫んだ。波の音が聞こえる。大垣では見ることができない景色だ、「そうやんなぁ」なんとなく相方は返事をしてくれるが、あまり気にしてなさそうだった。金沢までが近くなって僕らは、海沿いをずっと走っていた。
夕日が綺麗だと最初は思った。ずっと走っていると、退屈になってきた。なんと業が深い生き物なんだろうか人間は。気がついたら僕らは、青春映画みたいに夕陽の中でどうでもいい話をしていた。遠くで女子高生が遊んでる。山に囲まれて育った僕は少し羨ましかった。
「なんかさぁ!海って明るそうじゃない?」なんとなくそんな話をしていた。足を踏み込み、潮の匂いがして、冷たい風が頬に触れる。今日の宿はどうしようか、なんとなくそんな話をしていた。「どうしよっか?そういえば教員で金沢に住んでいる人がいたっけ?とめてもらう。」「いやぁ難しいんじゃない?」そう言いながら沈みゆく夕日の中を進んだ。まだ遠くでは誰かがあそんでいる。
山での迷いと雨、自分たちの速度の遅さが原因となって、金沢を到着地にした。悔しさを感じず、ただただ安心した。必ずしもシュミレーション通りにいくとは限らないし、実際に体を動かす中でコンピューターが計算する速度に、人間が合わせれるとは限らないことを知った。ゴールを変更することで、自分たちの甘えじゃないかとも思ったが、全然違う、なんとなくそう信じることにした。
金沢駅をゴールにしていたが、金沢駅周辺で自転車を分解し、車に積み込むための場所がないことが分かり、ドンキーホーテの駐車場に集合地点を変更した。
ドン・キホーテには、人とヤンキーがたくさんいて、安心した。ただ到着地点をドン・キホーテにしたこともあってか、うぉーーー着いた!!!みたいな感じには、ならなかった。
合流する塩澄と森田が到着するまでサイゼリヤで食事をとることにした。
思い返せば、この3日間で地域を感じる食事をとっていない。3日間ともチェーン店での食事だ。それが面白かった。チェーン店での食事は僕たちを安定の日常の中で繋ぎ止めていた。他にも地域の特産物を食べてもよかったがあまりにも地域のお店が少なかったことと、食べたときにその時求めていた味と違ったときになんとなく軽い絶望がしそうだったから食べなかった。
森田、塩澄と合流すると相方と自転車をばらして、車に詰め込む。暗い中での作業で部品を無くさないかが心配だった。
3日目は初日と2日目のライドとは違い、予定通りの時間に目的地に到着することができた。それだけは嬉しかった。走行距離は計画通りの80kmである。雨が降らなかった影響もあるが、昨晩の身体的疲労を考慮した上でのルート選択が何より功を奏したと思う。スポーツ用の借りた自転車はすんなりとばらせたが、ママチャリは難しくかなり強引に車に積んだ。長く付き合った自転車も一旦ここでお別れだった。せっかくだからという理由で金沢駅にむかった。狭くて快適とは言えなかったが、車内に乗って流れる景色を見た時は、感動した。ペダルを漕がなくても前に進めるんだ。
1日目〜3日目を合計した全走行距離は、210kmだ。計画の大垣から新潟までは470kmなので、44%の達成となる。次回は本自転車旅行についての振り返りをメインに、新潟県で開催されていた芸術祭や長岡造形大訪問などのレポートを交えた記事となる予定だ。
次回公開する大垣〜新潟470kmロングライド道中編4日目は、12/27更新予定。記事全体の構成は、準備編、1日目、2日目、3日目、4日目(振り返り+まとめ)の5つからなる。