出発。
1日目の目的地は福井県の鯖江駅周辺。ネットカフェに泊まる予定だ。スタート地点は大垣にある情報科学芸術大学院大学の校舎である。Appleマップで調べると、距離は112km。自転車でおよそ6時間30分かかるようだ。
後に合流する塩澄と森田に別れを告げ、13:00に出発した。
すこし移動するだけで、町並みは変わる。田んぼ、空、下校中の小学生、お墓の横を通るおじいちゃん、どれも普段とは違う場所で見ると、感じ方が違う。なんでずっと学校にいるんだろう。風を感じながらそう思った。土の匂い、少し降る雨、体から出る汗、どれも普段の学生生活では感じられないことだ。少しわくわくしながらも、たどり着けるのかの不安もあった。目的のある一歩を進んでると思うと、途端に嬉しくなりペダルを踏む。風が答えてくれるかのように、頰をなびく、昼間の明るさは田んぼに反射してキラキラしていた。
出発してから12km地点。自転車に後付けしたリアキャリアが、段差を横断したときの衝撃でずれてくる。休憩を兼ねて、固定し直す。
さらに走って15:00ごろ。ここ数時間、人気のない場所を走っている気がする
40kmを4時間かけて走ってきた。Appleマップ上では、ここまでおよそ2時間14分で到着可能と表示されている。今の僕たちの肉体では、1時間に10km進むのが限界らしい。
「シミュレーションじゃだめなんだよ」クワクボ先生の言葉が頭をよぎった。
17:00、もうすぐ日がおちる。
鯖江市までは山登りが残っている。少し不安になってきた。
「コンビニやッ!」
自分でもびっくりするぐらいの大きな声が出た。今まで通り過ぎた道を思い返す。
自転車を進めるごとに見たことない街に進み、コンビニやスーパーを離れ、開けた田んぼが綺麗だと感じた瞬間も、移動した距離と一緒に過ぎ去っていった。
夕日がゆっくりと沈み、少しずつ暗くなっていった。これから山に入るのに僕たちは、何も食べれずに、不安を感じたまま山に進むところだった。次第にファミレスやスーパーなど、人が集まるところが恋しくなった。無機質な車だけが僕らの横を過ぎ去って行き、表せない寂しさと悲しさを、秋の風と車のヘッドライトが頬を撫でていく。どこかの田んぼがなにかを燃やしている。
僕たちは永遠と出られないノスタルジックな街の中に入って、怖くなっていた。二人でいるのに急に寂しくなった。
そんな中で見つけたのは、コンビニだった。久しく見たコンビニによって不安が紛れて行き、改めて自分は寂しかったことに叫びながら気づいた。
コンビニの光に虫とヤンキーが集まるのは、一人で抱える淋しさに耐えられないんじゃないかなと思った。
二人してコンビニに入り暖かい肉まんを食べる。ホッとした僕らが口から食べかすと一緒に落としたのは、「不安」だった。小さくても拭えないささやかな不満を秋風の中にのせた。
ゆっくりとサドルの上に乗り、ペダルを漕いだ。口の中には、さっき食べた肉まんの味がまだ残ってる。
鯖江を目指し山々を超えるために余呉高原リゾートYAPの方を向かう、Appleマップに従い国道365号線に沿って走る。コンビニを出たのは18:00過ぎ。
少し走ると、周囲に明かりはほとんどない。すると急に辺りは危険地帯になる。まさか、自転車のライトに自分の命を預ける状況になるなんて思いもしなかった。視界が抜ける場所では、車は速度を出す。車に自分の存在を知らせながら、田んぼに落ちないように避けながら、自転車に装備された心もとないライトを頼りに漕ぎ続けた。
輝度の高いライトを買い足せばよかったと後悔した。
人気のない山登りは気味が悪く、音楽をかけて気を紛らわしながら進んだ。
最悪な気持ちだった。確実に目的地の到着時間には間に合わず、夜になり電灯も少なくなった。本来通るはずの道が交通規制によって通れなくなっていた。山の中での遭難だった。しかも公道で遭難している。寒くなり息が白くなる。月明かりが照らす明かりは少なくて、街の明かりが寂しい。何度も何度も山中の集落を超えてきた。どこも明かりは付いていても、人がいるのか分からないくらい静かだった。途中で野犬なのか、ペットなのか分からない犬に吠えられて怖くなった。昼間の綺麗な山はゆっくりと僕らに牙を向け始めた。
365号線の滋賀県境交通規制によって、進めなくなり、別の道も分からず困っていた。相方がじっとGoogleマップを見直している。体の温度は下がっていき、白い息が目立つ、近くに神社があった事を思い出す。何か鳴き声が聞こえる。女性か老婆が叫ぶような声が聞こえた。動物かなと思いながらぼんやりとする。だんだん音が近づいてきた。ざわざわと音がして、パキッと何かが折れる音がする。ここに留まることが嫌になって、「早く行こっ!」思ったより大きな声が出て、相方は驚いていたし、焦っていた。急いで自転車に乗り、明るい場所を求め坂を下った。音はいつしか聞こえなかった。月明かりがぼんやりと木々を照らす。自転車の音だけが山の中に吸い込まれていった。
交通規制でこの道を通り抜けることができないということは、今日中に鯖江に辿り着けないということである。二人も混乱していて、マップを落ち着いて確認できない状況にいた。
嫌な汗をかきながら、鯖江に行く迂回路を聞くために道路保全課に電話をかけ、僕たちはようやく、鯖江に行くことができないという事実を受け止めることができた。
なくなく目的地を敦賀に変更。来た道を戻り、8号線に沿って街を目指した。
幸いにも下り坂だったため、敦賀までスムーズに距離を縮めることができた。山を出るまでの道のりでは、草むらから3回も野生の鹿が飛び跳ねた
遠くに街の明かりが見える。
ああ、山を降りれたのか、とホッとした。人がいる。人がしゃべっている。人が歩いている。それだけで感動した。深夜1時を回って、ようやくホテルに到着。
「ビジネスホテル山形」、1人3000円程度で宿泊できたと思う。疲れすぎて覚えていない。
次の日、朝起きると雨だった。
次回の大垣〜新潟470kmロングライド道中編2日目は12/9に更新。記事全体の構成は、準備編、1日目、2日目、3日目、4日目(振り返り+まとめ)の5つからなる。