柳サイクルでクロモリフレームをオーダー #2:ジオメトリーを自分で考えてみる

今回の(初めての)フレーム製作オーダーにあたり、ジオメトリーは柳サイクルの飯泉さんに全てお任せするのではなく、自分で考え、悩んでみることにした。この記事ではその模索の過程を振り返ろうと思う。

ベース車のジオメトリーを測る

一つ前の記事で書いた通り、自分のオーダー車は普段よく乗っているミヤタのLe Mansスポルティーフ(以下Le Mansと略称)を参照し、その弱点を解消していく方向で仕様を決めた。ジオメトリーに関しても、第一歩はLe Mansの各部の採寸だ。これは柳サイクルで飯泉さん(&同行した友達)と一緒に行った。

計測風景
数値を書き留める飯泉さん
飯泉メモ

また、オフロード走行などでサドルから腰を上げて乗る際のポジションを決めるのに重要な「リーチ」(=ボトムブラケット中心からヘッド部分までの水平距離)と「スタック」(=同、垂直距離)も自分で測定した。なお「ヘッド部分」といってもステアリング軸上のどの点でみるかでリーチとスタックの値は共に変動するので、どこを測っているかを見失ってはならない。

ステム下面のセンターを基準にリーチとスタックを測る場合
ボトムブラケット中心からの距離がリーチ(※カメラの歪みあり)

BikeCADで設計図をいじる

ジオメトリーの目安ができたところで、BikeCADを使って設計図を描いた。決めきれない点があった時に二度ほどオンラインで飯泉さんに相談し、最終的に次の画像の寸法に確定。

今回のオーダー車のジオメトリー
Le Mans 柳オーダー車
シート角73度くらい73.5度
シートチューブ長510mm(C-T)420mm(C-C)
ヘッド角71.5-72度くらい71.5度
フォークオフセット70mmくらい57mm
BB下がり68mm70mm
BBハイト700Cの40mm程度のタイヤで280mm付近650Bの48mm程度のタイヤで274mm付近
フロントセンター617mm610mm
リアセンター445mm430mm(大まかな目安)
スタックヘッドセット上面で540mmくらいヘッドチューブ上面で557mm
リーチヘッドセット上面で395mmくらいヘッドチューブ上面で385mm
ジオメトリー比較

それぞれの値の理由

比較表から分かる通り、Le Mansとオーダー車のジオメトリーは似通いつつも少し違っている。なぜそうなっているのか、個々の値の意味するところを次に記しておく。

フォークオフセットとヘッド角

自転車の操舵感の中核を左右するのが、ヘッド角をはじめとするフロント周りだ。Le Mansの感じは好きで、オーダー車も同様にしたい。ただしタイヤ径が700Cの40mmから650Bの48mmに縮小するので、それに伴うトレイル値の減少を相殺するためフォークオフセットは70mmから57mmに。長さ400mm弱・オフセット55mm付近であれば市販品のカーボンフォークもあり、将来的に換装してもジオメトリーは大きく狂わない。

ヘッド角は71.0度も検討したが、飯泉さんが「フロント積載なら」と提案して下さった71.5度に決定。自分はハンドルバー前に荷物を積むことが多いので、ヘッドはあまり寝かせない方が低速での勝手な切れ込みが少なくてよいのだ(この辺りについては昨年8月に「前荷ismのための自転車ジオメトリー考察」という記事を書いた)。

ヘッド角が(ほぼ)変わらないままオフセットが減ると気になるのが、テクニカルな未舗装路などで影響してくる爪先と前タイヤのクリアランスだ。これはタイヤ径が小さくなることにより、オーダー車でもLe Mansと同等に確保できる見込みである。

前の方

スタックとリーチ

スタックとリーチに関しては、Le Mansを自分なりに乗り込んでポジションを煮詰め、BikeCADとにらめっこしながら値を決めた。60mmのステムにDixnaのバンディーハンドルバー(Lサイズ)とJリーチレバーというコックピット構成もそのままコピーする想定である(ステム長は少し変えるかも)。

スタックはヘッドチューブ上面で557mmとした。両車ともヘッドセット上面で比較すると25.5mm増となる(Le Mansのスタックがヘッドセット上面で540mmくらいなので引き算して17mm + オーダー車のヘッドセット部品の厚み約8.5mm)。その目的は、ステム下のコラムスペーサーを5mm程度に抑えて見た目をスッキリさせるとともに、股への攻撃性という実際的な脅威を低減することだ。ついでに前三角の内側の空間も少し広くなるだろう。

リーチはヘッドチューブ上面で385mm。計算上はLe Mansとほとんど変わらないポジションで乗れる数字で、これとヘッド角、フォークオフセットが合わさってフロントセンター(=BB中心から前輪車軸までの距離)は610mmとなり、前述した爪先クリアランスの問題もクリアできる(はず)。

シートチューブ長とシート角

シートチューブ長はボトムブラケット中心からトップチューブ接合部のセンター(C-C)で420mmに設定。前の記事で言及したように、Le Mansはシートポストの露出が少ないせいでサドル下に肩を入れられず、ちょっとだけ担ぐかも、程度のシチュエーションでも前三角の内側を空けておく必要がある。オーダー車ではこうならないようにしつつ(トラベル量100mmのドロッパーシートポストの使用も想定)、前三角の中が狭くなり過ぎず見た目のバランスも良さそうなシートチューブ長を探った。

シート角は73.5度。Le Mansより微かに立つことになるが、特になぜということもない。BikeCADでなんとなくいじってみてしっくりくる感じがした、くらいの流れだったと思う。サドルのセッティングは靴や靴下、下半身の衣類、体調などでもフィット具合が変動するので、ある程度のゾーンに入るようには狙うものの、あまり固定的に考えていない。

後ろの方

ボトムブラケット周り

自分の理解では、BBは人間が自転車の上でバランスをとる際の土台の核だ。「BBハイト」(=BBの中心の地上高)が低くなると前後方向の安定性が増すので、ホイールを大径化し走破性を上げる際にBBハイトも低く保つため「BB下がり」(=前後の車軸を結んだ線に対してBBの中心がどれだけ下がっているか)を多くとったフレーム設計にする、といったことが行われる。

40mm程度の700CタイヤでBBハイト280mm付近というLe Mansに対し、オーダー車では48mm程度の650Bタイヤで目標BBハイト274mm付近、そのためのBB下がり70mm、という値を設定。これにあたっては、主にTekné CyclingのMatt Surchによる “MATTER of FACT: How to Understand Gravel Bike Geometry” を参考にした。

700C x 38650B x 38650B x 45650B x 50
タイヤ半径349330337342
BB下がり64646464
BBハイト285266273278
特性オフロード性能はまあまあ(ペダルクリアランス良好)、グラベルロードの高速走行には向かないオフロード性能はまあまあ、グラベルロードの高速走行には最高オフロード性能は良好、グラベルロードの高速走行も優秀オフロード性能は良好、グラベルロードの高速走行も優秀
“MATTER of FACT: How to Understand Gravel Bike Geometry” 所収の表を翻訳抜粋。

なおBBが収まるフレーム側の「BBシェル」の幅はロードバイク系のスタンダードである68mm(JISねじ切り)とし、「Qファクター」や「トレッドライン」と呼ばれる左右のペダルの距離を実現可能な範囲内で狭くできるように依頼した。QファクターはBBハイトと共に(下半身を主とした)自転車の操舵感、そしてそこから生まれるリズムに大きく影響を及ぼすため、色々なセットアップが選べる余地をもうけておいた方がよいと考えている。

リアセンター長

リアセンター長は445mmから430mmを目指して短縮。ここの確定はかなり遅かった。今回のオーダー車に採用することにしたスルーアクスル式の後輪車軸は幅が142mmで、Le Mansの130mm(※拡張してある)よりも左右それぞれ11mmずつ広い。BBから後ろに伸びるチェーンステーはその分だけ外に張り出すわけだから、Qファクターを詰めるとクランクが当たるとか踵が当たるといった不都合が生じる。このジレンマの解消はリアセンター≒チェーンステーが短いほど面倒になる。

445mmと長いLe Mansのリアセンターはゆったりと安定した乗り味を生んでいる要素の一つと思われ、それはそれで気に入っている。ただ未舗装路の登りでサドルから腰を上げてペダルを踏む際には、上半身をあまり前に入れると後輪のタイヤ接地面に体重が乗らず空転が起きがちだ。

またリアセンターが長いと短い場合に比べ、BB上にニュートラルな状態で乗った体重の前輪側への配分が増える。意識的に前がかりの姿勢をとらなくてもフロントのグリップが甘くならないLe Mansのバランスは好ましいものの、この性質をオーダー車でさらに強化したいとは思っておらず、むしろ僅かに抑えてもよい気がしている。そうすると最低でもフロントセンターが7mm減る分はリアセンターも縮めるのが妥当ということになる。

以上を総合し、飯泉さんの意見も伺って、リアセンターは工作に無理が出ないことを重視しつつ少し縮めてもらうことにした。ホイールベース(=前後の軸間距離)は20mm前後は短くなる計算だが、それでも1040mmはそこそこ長いし、BBハイトも少し下げて安定感を出す方向なので問題はないだろうと判断した。

いよいよ製作へ

こんな調子でパズルを解くようにジオメトリーをこね回し(煩雑になるので省いたがKonaのLibreやMarinのHeadlandsなどのジオメトリーも参考にした)、この夏、晴れて製作に着手してもらうことになった。次回は出来上がったフレームとフォークを紹介できたらと思う。

ちらり

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