瀬戸内、海の大三角形 (3) しまなみ海道

瀬戸内トライアングルは1日目2日目で、さざなみ海道、とびしま海道を走破し、しまなみ海道の半ばまで進んでいた。そして最終日は宿泊地であった大三島の西岸を出発。昨日と同様に天候は良く、明るい日差しと穏やかな風はザ・瀬戸内海。この日は尾道の手前で知人に会う予定があり、その後は早めに帰路につきたかったので、時折短い休憩を取るだけで、ひたすらペダルを踏むことになる。

しまなみ海道に入ってすぐに気づくのは、サイクリストが多いことだ。とびしま海道では店も人も少なかったのに対して、こちらは路上もショップも多くの人で賑わっている。自転車だけでなく、自動車も随分と多い。家族やグループも多く、あちこちから歓声が聞こえてくる。小径車もあればロード・バイクもあり、それぞれが思い思いに自転車を楽しんでいる。

もっとも平日であったので、混雑する状況にはほど遠い。新型コロナウイルスで外出を控えている人が多く、海外からのインバウンド旅行者は皆無といった事情もある。途中のサイクル・ステーションでは何十台ものレンタル自転車が並んでいた。何年か前の休日なら、これらがすべて島を駆け巡っていたに違いない。しまなみ海道は賑やかだと感じていたが、往時に比べれば閑散としているのだろう。

しまなみ海道のもうひとつの特徴は、島から島へと渡る橋が大きく長いことだ。それに比して橋桁の位置が高く、たっぷりヒルクラムが楽しめる。筆者は電動アシストのおかげで苦もなかったが、自転車から降りて押し歩く人も少なくない。そして上りきれば雄大な景色が待っている。歩行者・自転車専用道路を快走しながら、穏やかな海と島々を遠くまで見渡すことができる。

とびしま海道と同じく、路上にブルーラインや距離・方向を示す標識が描かれている。いや、こちらが先駆けで、他のコースのモデルになったわけだ。専用道路ではなく路側帯ではあっても、道幅に余裕があり、路面状態も良い。自転車が認知されているのだろう、自動車の運転マナーも良好。市街地のように緊張を強いられずに、ゆったりと自転車に乗ることができる。

しまなみ海道のブルーライン

ただし、しまなみ海道の島は大きめで、海沿いや島の内側など数多くの道路がある。ブルーラインの推奨コースも複数の経路があり、一筋縄ではいかない。筆者も少なからず道を間違えてしまった。無限ループさえ起こり得り得る。さざなみ海道のように線的ではないので、フェイル・セーフ的対策も難しいかもしれない。また、高低具合では最短コースより周回コースの方が走りやすいこともありそうだ。

しまなみ海道の内陸部のコース

途中の生口島では瀬戸田港に立ち寄ってみた。10年前は尾道から瀬戸田まで自転車で走り、この港から自転車とともに小さなフェリーに乗って尾道に戻ったからだ。港の様子は以前と同じに思える。ここからは10年前のコースの逆戻りになる。空間を戻れるなら、時間も戻れる気がしてくる。道すがら、かつて食べたアイスクリームを注文し、同じ場所で同じ画角で写真を撮る。

瀬戸田港と小型フェリー

少し感傷的な気分になりながらも、先を急ぐ。目を前に見据えて黙々とペダルを漕ぎ続けるのは、修行や禊ぎといった気分。橋はもちろんのこと、島内の道にもアップダウンがあり、上り坂では電動アシストに助けられる。それでも屈強なロード・レーサーには軽々と追い抜かれてしまう。平坦な道では言わずもがな。自分が選んだこととは言え、重たい自転車と重たい機材が恨めしくなる。

生口橋とGiant ESCAPE RX-E+

お昼過ぎに島々の終点に到着。ここでの待ち合わせは昔ながらのサイダー屋さん。はちみつレモンが疲れた身体に染み渡る。数年ぶりに会う知人は、自転車に乗り易い環境を求めて都会から移り住んでいる。そのような経緯や地域の状況、そして自転車からリモート・ワークまで話題は尽きない。ただ、今回の旅で親しく人と話をするのは初めてだったことに気づいて驚いてしまう。

最後は対岸の尾道へ渡船で渡る。しまなみ海道で唯一の船旅だ。その距離は短く、すぐに着く。運行も5分おきや10分おきと頻繁。自動車よりも徒歩や自転車の人が多く、普段使いの人にとっては下駄のような船なのだろう。ちなみに、尾道駅前はサイクリストで混雑するので、少し離れた渡船を使う。船上で料金を徴収されるので、小銭を握りしめておくのがツウらしい。Apple Payは使えない。

尾道渡船(向島の兼吉渡し)

このようにして、さざなみ海道、とびしま海道、しまなみ海道と大きな三角形を描くように瀬戸内海を巡った3日間の自転車旅行が無事に完了した。それぞれの海道ごとに異なる魅力があり、じっくりと回りたかったとも思う。どれかひとつなら、筆者は素朴な楽園感に溢れるとびしま海道を挙げたい。ただし、今回は走らなかった海道が4つもあるので、まだまだ未知の発見があるに違いない。

とびしま海道の小さな島

ところで、渡船で潮風に吹かれながら、フィンランドのアーキペラゴ(多島海域)を思い出した。その何千何万もの島々は、橋だけでなく多くは船で繋がっている。市街地の細い川でも船が頻繁に運行されている。そう、橋を架けるのは必ずしも自明ではない。今後、ロボット操船によって柔軟な運行が可能になれば、橋より船がもてはやされることも有り得るだろう。

トゥルク(フィンランド)の小型フェリー

あるいは橋であってもコペンハーゲンの歩行者・自転車専用橋が参考になるだろう。一般的な橋はトラックを含めて何十台もの自動車が通行できるように頑丈に作られている。これもまた自明とは言えない。自転車とともにマイクロ・モビリティが普及すれば、ライトウェイトな橋で十分であり、多様な経路を実現できる。巨大な橋1本より小さな橋10本が望まれることも多いのではないだろうか。

コペンハーゲン(デンマーク)の歩行者・自転車専用の橋

しまなみ海道は本質的に自動車道路に他ならない。他の海道も同じで、日本の道路は自動車による産業や経済のために設計されている。しかし、しまなみ海道は日本で最初の、そして最大のサイクル・ツーリズムを築き上げた。それならば、さらに新しい自転車や道路の在り方を探る先鋒となって欲しい。それは内燃機関のミサイルが排除される時代、つまり自動運転EV時代の要請でもあるはずだ。

【追記】1日目にあたる「瀬戸内、海の大三角形 (1) さざなみ海道」も併せてご覧ください。(2022.04.09)

【追記】2日目にあたる「瀬戸内、海の大三角形 (2) とびしま海道」も併せてご覧ください。(2022.04.09)

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