瀬戸内、海の大三角形 (2) とびしま海道

さざなみ海道、とびしま海道、しまなみ海道と3つのサイクリング・コースを回る瀬戸内トライアングル3日間の2日目。初日は早朝に自宅を出発して新幹線と在来線で尾道へ移動。電動アシスト自転車をレンタルして、さざなみ海道を西へ進む。午後からは小雨模様だったこともあって先を急ぎ、夕方までに約66kmを走って分岐点より少し手前の宿泊地に到着していた。

この日、2日目の朝も早めに出発。雨は昨日のうちに止み、薄曇りから次第に晴れてゆく。さざなみ海道の残り15kmほどを走れば、とびしま海道の広島側の入口、水色の吊り橋が見えてくる。今回の旅で最初の橋だけに、いやがおうにも気分が盛り上がる。高い位置にある橋からの眺めは素晴らしく、何本ものケーブルやトラスが織りなす幾何学的な造形が美しい。

安芸灘大橋
(ケーブル上は点検作業員)

橋で繋がっているとは言え、に渡ると景色は一変する。のどかな海沿いの集落、白いタイル敷の道路。落ち着いた町並みに、庭園や美術館など豪奢な木造建築が凛として佇む。古くから豊かな島であったのだろう、上品な趣がある。詳しいことは分からないものの、それでも自転車で通り過ぎるだけで、肌感覚として伝わってくることは多い。街の喧騒を離れ、本来の感覚が戻ってくるようだ。

このようにして、とびしま海道は5つの大きな島と2つの小さな島を渡っていく。近代工学の粋を集めた橋と、昔ながら落ち着いた村落や恵み豊かな自然とが交互に現れる。この対比が面白いし、走る励みになる。次の橋が次第に大きくなり、島や海を見渡しながら次の島へ渡る。それぞれ橋の姿も異なれば、島の雰囲気も異なる。余裕があれば島を一周し、立ち止まって散策したいところだ。

この日は走行距離が長くなるので先を急ぎ、ゆっくりと島を楽しむ時間がなかった。それでも名産の柑橘類の香りを楽しみ、御手洗地区の古い街並みに迷い込み、海辺でドローンを飛ばしていた。桃や桜の花が咲き始めた緑豊かな山、透明な緑から深い青へと続く綺麗な海、穏やかな春の日、そよぐ風、特別なものは何もなくても心が洗われる。いや、それこそが特別と気付かされる。

豊島の豊浜漁港

とびしま海道の推奨ルートにはブルーラインや路面標識が整備されている。しかも路面の状態は良好で、道幅に余裕があり、交通量は少ない。島と島を結ぶ橋には専用の歩行者・自転車道路が設けられている。たまに自転車や自動車に出会う程度で、のんびりとしている。今回の3海道の中では最も走行環境が良いと言える。最短コースなら約30kmのこところを、多少の寄り道をして実走距離は38kmほどだった。

とびしま海道のブルーライン

終着の岡村島から先は橋はないので、せきぜん渡船に乗り込む。運航数が限られ予約不可の先着順ながら、平日のお昼とあって小さな旅客船は空いている。定員40人に対して乗客は数人、10台分のスタンドには筆者の自転車だけ。明るい日差しに潮風と白い船跡、爽快な至福に包まれる。ただし甲板に出てウキウキしているのは一人しかいない。船は島々を寄港しながら約1時間で今治に到着する。

せきぜん渡船の旅客船

今治からはしまなみ海道に入り、最初の橋を渡った大島の道の駅で遅めのランチ。島の名産という来島鯛のフィッシュ・バーガー。その後は宿泊を予定している大三島を目指す。実は、せきぜん渡船は大三島にも寄港するので、ショートカットすることもできた。それでは3海道制覇にならないが、立ち寄り場所を考えながら、島の道と海の道の経路と経路を繋いてコースを工夫するのも楽しいだろう。

鯛カツバーガー

夕闇迫る頃に到着した知人お勧めの宿は、玄関近くの一室が自転車部屋になっており、サイクル・ラックや整備工具がずらりと並んでいる。外観も館内も古びた旅館としか思えないだけに、そのギャップが愉快だ。聞けば宿の若主人はランドナーで各地を回っていたとのこと。スタイリッシュなサイクリスト向けホテルも良さそうだが、このような手作りの自転車ホスピタリティも嬉しい。

旅館さわきの自転車部屋

このようにしてこの日は実走距離にして、さざなみ海道15km、とびしま海道38km、しまなみ海道45km、と全体では100km近い充実した走行となった。意外に疲れなかったのは、途中で1時間の船上休憩をはさんだからだろう。旅館の熱い湯に浸かり、素材を活かし贅を尽くした海鮮料理をいただく。かすかに潮騒が聞こえていたのだろうか、静かな島の夜に一瞬で眠りに落ちたのは言うまでもない。

来島鯛の焙烙焼き

【追記】1日目にあたる「瀬戸内、海の大三角形 (1) さざなみ海道」も併せてご覧ください。(2022.04.03)

【追記】3日目にあたる「瀬戸内、海の大三角形 (3) しまなみ海道」を公開しました。(2022.04.09)

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