瀬戸内、海の大三角形 (1) さざなみ海道

しまなみ海道は尾道と今治を結ぶサイクリング・ロード。のどかで美しい瀬戸内海の島々を巡り、ヒルクライムを兼ねて高架橋を渡る爽快感も素晴らしい。自転車のために道路や施設が整備されており、飲食や観光を含めたサイクル・ツーリズムとして成功している。筆者は10年前に半分ほどの行程を走っただけで楽園気分を満喫。そして最近の春の陽気に誘われて、島を渡る風になろうと思い立った。

しまなみ海道(2012年4月)

そこで検索すると、驚いたことに5海道とも7海道とも呼ばれる一大アライアンスが作られていた。しまなみにあやかって自治体などが地域振興の要として自転車に注力しているのだろう。そこで今回は、さざなみ海道、とびしま海道、しまなみ海道を回ることにした。瀬戸内トライアングル、尾道、呉、今治を結ぶ海の大三角形だ。左回りとしたのは、さざなみ海道では海側を走り、景色が良いはずだからだ。

筆者は自宅近くの大垣駅を早朝に出発、3時間少々で尾道駅に到着。まずはONOMICHI U2Giantストアで予約していたESCAPE RX-E+を借りる。レンタルの手続きは15分ほどで完了したものの、バッグや機材を自転車に取り付けるのに小一時間を要した。最小限の衣服やスマートフォンの他にサイクル・コンピュータ、カメラ3種、ドローン、電動アシスト充電器と我ながら呆れる重装備。後悔は先に立たない。

ESCAPE RX-E+でバイク・パッキング

さて、生憎の曇り空の下、さざなみ海道を呉に向かって出発。ほとんどの人はしまなみ海道を南下するので、西に向かう自転車は皆無。途中で出会う自転車も少ない。ネットでの情報は少ないし、観光案内所やGiantストアでも色良い話がない。大半が幹線の国道であり、車線が狭くて緊張を強いられるので人気がないのだろう。都心に比べれば交通量は少ないが、路面が悪く路側帯が狭いのが辛いところ。

さざなみ海道

また、しまなみ海道では路側帯に推奨ルートを示すブルーラインが続き、目的地への距離や方向を示す標識が1kmおきに描かれている。しかし、さざなみ海道ではブルーラインは僅かで標示は5kmおきと散発的。そのせいか、市街地などで曲がり角を見逃してルートを間違えたことが何度かあった。正しいルートだけでなく、間違えた先にはレッド・マークが欲しい。つまり、フェイル・セーフが必要だ。

さざなみ海道の方向標識

走行環境は最高とは言えないものの、それでも対岸の島影を見ながら海岸線を走るのは爽快。何しろ、明日からこの島々を渡るのだから、不思議な気分になる。今回は利用しなかったが、ウサギと毒ガスで有名な大久野島などへも船で渡ることもできる。有人島であっても本州や四国との橋が掛かっていない島は、独特の雰囲気があるに違いない。7海道には含まれない島々だ。

まだ寒い時期だから浜辺に人影はなく、時折、岩場に釣り人を見かける。沖合に養殖の筏が浮かび、幾つもの小さな漁港を通り過ぎる。クレーンが立ち並ぶ造船所は遠くからも見え、近づくとその巨大さに圧倒される。だが、それは意外に違和感がない。海辺に漁業と工業が混在するのは近代日本の原風景なのだろう。なお、さざなみ海道の一部は山間となり、アップダウンもある。

神田造船所(神田ドック

お昼過ぎに行程の中間地点にあたる竹原に到着。知人推薦のロード乗りイタリアンはランチ定休日。古い町並みの保存地区はひっそりとしており、お休みの飲食店が多い。そうこうするうちに雨が降り始め、目に入った蕎麦屋で鴨南蛮をいただく。店主の趣味なのか、西洋の古楽器や教則本が置かれていた。ちなみに途中の国道沿いには飲食店が少ない。観光地でも人通りが少ないので、さもありなんだろう。

昼食の後は小雨の中をひたすら自転車のペダルを漕ぐ。ただし無理は禁物。10kmごとに小休憩を取る。天気予報では夜まで降り止まないので、途中の観光じみたことは控えて先を急ぐ。雨天用のジャケットやパンツは用意していたが、手袋や靴が防水仕様ではなかったのが痛恨のミス。次第に手や足先に雨が染み込んでくる。土砂降りや極寒猛暑でないのが、せめてもの救い。

雨のさざなみ海道

さざなみ海道の終点付近には宿が少ないので、少し手前の昭和感溢れる大規模保養所に投宿。ここまでの走行距離は66km。さざなみ海道自体は82kmで、とびしま海道までは15kmほどを残している。ともあれ、準天然フェイク温泉で冷たい身体を温め、疲れを癒す。夕食はかき小町三昧会席。三倍体の大きな牡蠣は食べ応え満点過ぎて飽食気味。SDGsを謳っているが何かとピントがズレている。

蒸し牡蠣

今回は訳あって明確な目的のない一人旅とした。実はそのような旅をしたことがなかったからでもある。また、いわゆる観光は控えて、自然や街並みの景観を楽しむだけにした。つまり、風景を眺めながら風とともに自転車で走り続けようとしたわけだ。特に何かを考えるわけではなく、邪念が浮かんでは消えるのに任せる。語呂合わせで言えば、プラクティカルなサイクリングかもしれない。

三津口湾の波止場

【追記】2日目にあたる「瀬戸内、海の大三角形 (2) とびしま海道」を公開しました。(2022.04.03)

【追記】3日目にあたる「瀬戸内、海の大三角形 (3) しまなみ海道」を公開しました。(2022.04.09)

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