カーゴバイクによる生活改革:ドキュメンタリー映画『マザーロード ~母親たちの自転車革命~』

カーゴバイクのある暮らしにフォーカスした自転車ドキュメンタリー映画『マザーロード ~母親たちの自転車革命~』(2019年アメリカ、81分)が、日本映像翻訳アカデミーのイベントで日本初公開となった。専用ページで申し込めば、3月13日まで無料で視聴できる(※パスがメールで届くまでに最大3営業日かかるとのこと)。ここでは作品の概要と注目ポイントを記しておこう。

『マザーロード』(原題Motherload)はカリフォルニア在住のリズ・カニングによるドキュメンタリー映画だ。タイトルは「母親」(mother)が「担っているもの」 (load)の意。特定の鉱物を大量に宿す場所を指すmotherlodeと同じ音だから、価値のあるものの源というニュアンスも含まれる。車なしには暮らせないと考えられてきたアメリカでは今、自転車を生活の足とする文化が(再び)芽吹き始めており、子供を乗せられ荷物も積めるカーゴバイクに注目が集まっている。この変革を記録し、さらに盛り上げていくために作られたのがこの映画である。

Motherload予告映像(日本語字幕あり)

スポーツサイクリング、特にマウンテンバイクの聖地として知られるカリフォルニアのマリン郡。リズはそこへ移住し、自転車で駆け回ることで心身の解放を味わう。しかし出産後は育児と在宅ワークに追われてこもりがちになり、子供たちを連れての移動も車メインになって、身体を通じた世界とのつながりは失われてしまう。そんな中で起きたカーゴバイクとの出会いが、リズ一家の暮らしに新たな光をもたらす。オンラインコミュニティーを通じて世界のあちこちに仲間ができ、その人々から寄せられる声や映像に、リズは社会の進むべき未来を見る・・・。

本作の重要なポイントの一つは、趣味やレクリエーションの文脈での「サイクリングの聖地」となるだけでは生活自転車の文化は根づかないということだ。劇中にはマウンテンバイクの始祖の一人ジョー・ブリーズが登場し「いつかそれが当たり前になる」と語るが、地元の人々はちょっとそこまで行くのにも車を使っている。サンフランシスコ湾の対岸オークランドのXtracyclesがいち早く世に送り出したカーゴバイク化キットも、遊び道具としては売れていたものの、そもそもの開発意図だった社会変革をアメリカで起こすことはできていなかった。

もう一つの、さらに大事なポイントは、自由と社会参加をめぐる女性の闘いが今も続いているということだ。19世紀末から20世紀初頭にかけて、自転車は人の移動の自由を爆発的に拡大させ、女性参政権運動のシンボルにもなった。モータリゼーションの100年を経た今、アメリカの生活自転車文化再興の鍵を握っているのも女性たちである。車を使わないのはおかしい、という固定観念に基づく様々な攻撃にさらされながら、彼女たちはカーゴバイクに乗せた子供たちとともによりよい生き方を探る。

世界がうらやむママチャリ文化を持つ日本の住民にとっても、車中心の社会、ケア労働の分担の不均衡といった点で、『マザーロード』は頷かされることの多い映画だと思う。自分の身体と精神を自由にはたらかせ、周囲の世界や人々から隔絶されずに移動すること、その喜びを伝える映像も魅力的だ。3月8日の国際女性デーに合わせて視聴してみてはいかがだろうか。

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