サドル沼には手を出すな (1)

自転車のサドルは、座るものなのか?そうではないのか?この問いには長らく答えが出ていない。なぜならそれは公に知られた問いではないし、答えは個々人の感覚と納得に委ねられているからである。

ロードバイクに乗ってみたことがない人にはほとんど知られていない。ママチャリのような広く厚みがあり、スプリングまで入っていて着座しやすいサドルはロードバイクには付けられていない、ということを。一方、ロードバイクに乗ったことのあるほぼ100%の方は、必ずお尻や股間部などが痛くなったという経験をしていることは想像に難くない。座ろうとすれば痛い。座れなければサドルではない。ここが冒頭の問いに繋がっていくのではないか。

ロードバイク向けのサドルは矛盾している。乗り心地が良いということは、それに反して足を動かし推進するための効率が落ちることになる。これはロードバイク向きではない。しかし、乗り心地が悪いとだんだんと足を動かすのがつらくなってくる。これも困る。どうしたって困ることを約束づけられている、サドルとはそういう自転車のパーツである。

Sella SanMarco / Zoncolan

筆者はロードバイクに乗ってこのかた、主に一種類のサドルしか使ったことがない。イタリアのサドルメーカー、セラ・サンマルコの「ゾンコラン」というサドルである。解説しておくと、ゾンコランとはイタリア北部にある山「モンテ・ゾンコラン」から取られた名前である。自転車ロードレース大会である、ジロ・デ・イタリアでコースに設定されることもある。厳しい登りであるため麓の入り口には「地獄へようこそ」という文字の書かれたゲートが設置されるなど、レースのハイライトともなる舞台である。

ジロ・デ・イタリア ゾンコラン ゴール付近

さて、このサドルのゾンコラン、現在は生産が終了してしまっているそうだ。つまり私が今使用しているゾンコランを交換したくなっても、在庫が見つからなければもう新しい物を手に入れることはできなくなる。長年使い慣れたサドルを失うということは大変具合の悪いことだ。

そこで考えるのは、いかにサドルを長く愛用するかということになってくる。たとえば文筆家にも長年使用して愛着のある椅子があるだろう。自転車の椅子に相当するサドルも、乗れば乗るだけ自分の身体がそのサドルにあった自転車の乗り方に寄り添ってくる。そうすれば自転車に関する文章書きにも良い効果が期待できよう。ここは一つ、新たなサドルを見つけてみようではないか。

今現在私が望むのはゾンコランのように、細身のクロモリロードレーサーに似合う、速さのための効率だけでなく、シンプルでかつ美しい、王道とも言えるサドルである。変に芸術性や空力効果を狙った複雑な形状を求めたりはしていない。

筆者のゾンコラン Swift Industriesの「Catalyst」をサドルに装備

だが一つ、求めたいテーマがある。それは「サドルバッグが美しく装備できること」である。私はいま、サドルバッグをいかにかっこよくロードバイクに装備して走るかを考えているからだ。そして結論としてゾンコランは単独で美しいのであって、サドルバッグをつけるにはいくつか難がある、ということが分かってきた。

それら理由は追い追い述べて行くとして、まずはゾンコランに準ずる良きサドルを探し始めるのである。(続く)

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