長らく噂されていたAppleのAirTagが発売された。直径31.9mm、厚さ8.0mmで缶バッジのような小さなデバイスだ。これを財布に入れたり、カバンに取り付けておけば、置き忘れた時に簡単に見つけ出せるようになっている。iPhoneを使ってAirTagから音を鳴らす、その位置を地図で表示する、近くであれば方向と距離を示す、といった機能があるからだ。このAirTagは自転車でも使えるだろうか?
もっとも自転車は大きいので自宅やオフィスなどで見失うことはない。しかし、駅や商業地などの巨大な駐輪場で停めた場所を忘れることはありそうだ。屋外の空が開けた場所なら、かなり正確に「探す」アプリの地図に位置が示される。近くまでくれば自転車が目に入るだろうし、音を鳴らしたり、方向や距離の助けを借りても良い。ただし、GPSの電波が届かない地下では正確な位置を得ることができない。
それでは、自転車の盗難防止はどうだろうか? 残念ながら、これはできない。AirTagはモーション・センサーを備えているものの、激しい動きを検知して通知する機能はない。また、AirTagが一定距離以上に離れるとiPhoneに通知することもできそうだが、そのような機能も提供されていない。AirTagの状態や位置を頻繁に取得できないので、不確実にならざるを得ない盗難検知は省いているのだろう。
あるいは、盗まれた自転車を探し出せるだろうか? これは置き忘れに似ているものの、実際には難しい。窃盗者がAirTagの存在に気づくようになっているからだ。具体的には、所有していないAirTag を持ち歩くとiPhoneに通知がなされる。iPhoneを持っていなくても、3日後にはAirTagが音を鳴らし始める。いずれもAirTagを使って他人の追跡や監視ができないように配慮されているわけだ。
そもそも窃盗者なら電波をチェックして、発信源を取り外すに違いない。そこで、簡単に自転車からAirTagが取り外せないことが必須だ。キーリングで取り付けたり、サドルバックに入れるのは論外。フレームの内部に入れるのは良さそうだが、アルミニウムやクロモリなどの金属、さらにはカーボンも電波を通さないので、通信機能を阻害してしまう。一般的な自転車のフレーム素材は全滅のようだ。
こうなると自転車自体がAirTagに対応する必要がある。デバイス本体は取り外しができず、アンテナはフレーム表面にあるような機構だろうか。これまでも走行センサーを内蔵可能なフレームがあったので、難しいことではないだろう。実際に以前からVanMoofの電気アシスト自転車は盗難防止や追跡の機能を持っていた。そして今や正にAppleの「Find My(探す)」機能に対応している。
そう、AirTagの真価はネットワークにある。iPhoneをはじめとする何億台ものAppleデバイスが世界中に遍在しており、そのFind MyネットワークはOSレベルで動作して、ユーザに負担をかけない。また、通信内容を政府は含めて第三者が盗み知ることができず、Appleすらできない。プライバシーが守られた広大なネットワークがあるからこそ「探す」機能を信頼して使えることになる。
窃盗者を含めて他人の追跡にAirTagが使えないのも、プライバシー保護ゆえだ。AirTagはApple IDとの紐付けで所有者を特定できるが、AirTagを取り付けた物や人との関係は確認できないからだ。そこでAirTagと自転車が一体化すれば、自転車を追跡できるかもしれない。VanMoofでの実装が気になる。Find Myネットワークは他社製品でも利用可能なので、自転車関連メーカーは積極的に取り組んで欲しい。
ところで、未知のAirTagが音を鳴らすのが3日後なら、毎日会う子供やペットのトラッカーになりそうだ。窃盗者がiPhoneを持っていなければ、3日間は気付かれない。一方で、iPhoneが少ない過疎地では位置を特定しにくいだろう。ともあれ、実際に試すためにAirTagを自転車に取り付けてみた。何もなければ良いが、何かあった時にAirTagを思い出す必要がある。そこまではAirTagが面倒を見てくれない。
【追記】VanMoofのFind My機能についての記事を公開しました。(2021.05.15)