自転車のタイヤに結束バンドを巻き付ける。これで通常のタイヤがスノー・タイヤになる。雪に対するグリップ力が大きくなるからだ、結束バンドは取り付けが簡単で、価格も低いので、スパイク・タイヤなどに取り替えるより手軽だ。雪原を走るために専用のファット・バイクを用意するまでもない。雪が降り積もっていても、普段使っている自転車で出掛けられる。凍結した路面も怖くない。本当か?
そこで数センチほど雪が積もった朝、結束バンドをイギリスICE社のトライクSprint Xに取り付けた。この自転車は全輪がディスク・ブレーキなので、結束バンドがブレーキに干渉しない。また、三輪なので転倒することなく、安心して雪道に挑める。まさに今回の取り組みに最適だ。同社のトライクは世界で初めて南極点に到達した自転車としても知られている。人力での最速記録でもある。
結束バンドは繰り返して使えるリピートタイを使用。前輪後輪ともにスポーク間は36箇所あり、当初はひとつおきに結束バンドを結んだ。最初は手間取ったこともあって、所要時間は20分くらいだっただろうか。ちなみに、ひとつおきなら18箇所なので3つの車輪で合計54本だ。1本11.5円なので経費は621円だ。すべてのスポーク間に使用するなら、2倍の108本で煩悩の数と一致し、1,242円となる。
実際にトライクで雪が残る通路や公園を走ってみると、少なからず空回りする。特に漕ぎ出しや低速での走行に弱いようだ。そこで急遽、駆動輪である後輪に結束バンドを追加し、すべてのスポークの間に装着した。これでグリップ力は2倍ほどになるはずで、それなりに雪道を走破できるようになった。前輪は半数装着のままだが、制動には問題がないようであった。
ここで重要なのは結束バンドをしっかり絞めることだ。これが甘ければ力を受けて斜めになり、タイヤに喰い込んでしまう。また、雪と格闘しているうちに、結束バンドが何本かなくなっていた。これも結びが弱かったのが原因だろう。なお、タイヤはSchwalbe Kojak 700x35C、水に滑りやすいスリック・タイヤだった。これも溝が深く幅が広いタイヤを使えば、グリップ力が増すと思われる。
このように結束バンド・タイヤは、本格的なスノー・タイヤには及ばない。それでも普段とは違う雪道での走行は爽快で、寒い日の楽しみとして悪くない。今後は結束バンドの種類を変えたり、数を増やしたりして、より深い雪道やアイス・バーンにも挑んでみたい。そう、これは第一歩、いやファースト・ペダリングに過ぎない。南極大陸の端から南極点まで、起伏を無視すれば最短直線距離で500kmだ。