自転車に「乗る」ためのレッスン 第18回 実況者のレッスン

今回は、すこし趣向を変えて、僕自身が映像のなかに入り込んだ、自転車に「乗る」ためのレッスン。というのは、2020年7月23日に開催された、「Critical Cycling 新型グループ・ライド」で、赤松武子さんと実況を担当した体験について、振り返っておきたい。すでに、「新型グループ・ライド 2020 Summer 開催レポート」(2020年7月27日)があるので、そちらとあわせてお読みいただけると幸いだ。

この数ヶ月、Zoomを使っての授業、会議、研究会などなどから、気楽な打合せまで、それが日常生活の一部になっていて、徐々にこれに適応する自分もいる。すこし疎遠になっていた人と、Zoomで話をするようになったり、SNSの初期的な面白さがあるのも事実。鏡とも違うモニターに、自分を映し込んで会話することに馴れたかと言えば、正直そうでもない。大人数になった画面で、やたら揺れてる人がいると思ったらそれが自分で驚いたり。SNS初期どころか、初めて自分の映像を観た人、いや、初めて自分の写真を見た人が、それを自分だと受け容れられなかった気持ちを直接的に体験しているのかもしれない。そんな意味では、映像と自分のリテラシーは、依然として未成熟なのだが、Zoomにもすこし飽きてきた今日この頃、自転車でZoom? と相成った。

僕は自転車に乗るわけでも無く、自分の研究室からYouTubeへの配信をしながら、ホストするということになった。素朴にいうと、見ず知らずの人も含み、自転車に乗っている人々を繋ぐということ。それを第三者視聴するということ。自分では見たことが無く、何が起こるのかもわからないので、そもそも準備もなにも、大体、僕自身にとってもこれ面白いんだろうか? そんなことばかり考えていた。


新型グループ・ライド 2020 SummerのZoomミーティング記録

まず始まって、誰がどこにいるのかを把握しようとしたり、知ってる人知らない人を押さえる。なんとなくお互い、この状態を勝手知ったる状態としてよいのかどうか、なんだかそんな不安もありつつ、あとはみんな声が聞こえているのかどうか等々ばかり気になった。最初はしばらく、自転車を媒介に生じるサウンドスケープを楽しみつつ(たんに呆然としちゃってたんですが)、混沌に飲まれている自分が楽しかったりもした。そして武子さんがミュートしたり、GPSの画面をだしたりということをしはじめて、あ、そうか、ホストなんだからそうかそうか、と自分も意識を取り戻していく(笑)。まぁ自分の素人さを楽しみながら、ぶつぶつしゃべり始めた気がする。僕が何か話したいことを話すということよりも、とにかくライドしている人たちに、いまどこですか? はい。ちょっと音聞こえないですね。あ、ちょっとよく聞こえないんで、とか容赦なくミュートしたり話を中断していくという、ちょっと不躾さに馴れていくのが、この場合要領を得るということのようだった。いや、武子さん、さすが。とか思いつつ、GPSでどことどこにいますね。あ、合流できるんじゃないですか? とか言ってるうちに、終了間際にあてもなく走り始めた人が出会ったりということも起こった。大垣市内だけで無く、京都市内、江ノ島界隈等々、複数の場所が繋がっているのか、一体感があるんだか、無いんだか、不思議な2時間だった。

自分にとって得がたかったことは、同時に複数の場所を走る自転車の視点や振動、音響の配信が、都市の比較を構成している画面構成であり、注釈であると思えたことだ。複数の都市を走りながらプレゼンテーションしたり(走りながら?)、ディスカッションすることができれば(できるでしょうねー)、万人が楽しいかはさておき、建築探訪しつつアプローチから景観から交通量等々、飲食しつつ、2、3時間、まぁ研究会みたいなことをしてもよいのかもしれない。大分の磯崎新、高松の丹下健三、岐阜の妹島和世(といっても2つだけど「岐阜県営住宅ハイタウン北方」は高橋昌子、クリスティン・ホーリィ、エリザベス・ディラー、マーサ・シュワルツ、磯崎もある)、弘前の前川國男を同時にめぐりながら・・・誰か、そんなグループ・ライドしませんか? 僕は実況しますよ。

2 comments

  1. 私は走ってばかりで実況(グランド・コントロール)したことがないのですが、なるほど実況者の内情が伝わってきました。最初の混沌から覚醒への流れが面白いですね。

    「建築探訪しつつアプローチから景観から交通量等々、飲食しつつ、2、3時間、まぁ研究会みたいなこと」は是非企画していただけることを希望! 建築を含めて都市景観を自転車で走り抜けるようなイメージでしょうか。

  2. 松井です。改めて読み直したら、伊村さんが「自転車と放蕩娘 (4) 女性建築家が設計した住宅」(2019年9-月30日)と「自転車と放蕩娘 (6) 「磯崎新の謎」展と大分輪行」(2019年11月30日)で、すでに大分と岐阜を実行しているわけでしたー。もちろんこれらの記事も読んでいたのですが、大事なポイントは、同時にいくつかの都市でこれを実行して、街のスケール感や景観も含めて捉えられたら面白いかも、と思います。

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