ルカ・ブルーム(Luka Bloom)はアイルランド出身のシンガー・ソングライター。1992年にリリースされた「The Acoustic Motorbike」は、同名のアルバムのタイトル・チューン。冒頭の鳥や動物の鳴き声に自転車のホイールやベルの音が混じり、性急なカッティング・ギターによって曲が導かれる。アイリッシュ・ラップやフォーク・パンクとでも言いたくなる語り歌は、力強く疾走感にあふれている。
彼は20数枚のアルバムを発表しているベテランながら、日本では知る人ぞ知る存在だろう。かく言う筆者もWikipediaの自転車ソング・リストで知ったに過ぎない。だが、そのタイトルに惹かれた。Acoustic Motorbikeを直訳すれば音響的なオートバイ。あるいは、電気を使わない楽器をアコースティック楽器と呼ぶように、エンジンのないオートバイといった意味だろうか。そして歌詞も面白い。
The day began with a rainbow in the sand
Luka Bloom “The Acoustic Motorbike” (前半)
As I cycled into Kerry
Cattle grazing on a steep hillside
Looked well fed, well balanced
Close to the edge
一日は砂の中の虹とともに始まった
ケリー地方で自転車に乗っていた
急斜面で牛が草を食んでいる
餌を与えられ、良く育っている
限界はすぐそこだ
Pedal on, pedal on, pedal on for miles
Pedal on
Pedal on, pedal on, pedal on for miles
Pedal on
ペダルを漕げ、ペダルを漕げ、何マイルも
ペダルを漕ぐんだ
ペダルを漕げ、ペダルを漕げ、何マイルも
ペダルを漕ぐんだ
I take a break, I close my eyes
And I’m happy as the dolphin
In a quiet spot talking to myself
Talking about the rain
Talking about the rain
All this rain
休息を取り、目を閉じる
イルカのように幸せだ
静かな場所で自分に話しかける
雨について話そう
雨について話そう
すべてはこの雨だ
Pedal on, pedal on, pedal on for miles
Pedal on
Pedal on, pedal on, pedal on for miles
Pedal on
ペダルを漕げ、ペダルを漕げ、何マイルも
ペダルを漕ぐんだ
ペダルを漕げ、ペダルを漕げ、何マイルも
ペダルを漕ぐんだ
You see whenever I’m alone
I tend to brood
But when I’m out on my bike
It’s a different mood
I leave my brain at home
Get up on the battle
No hanging around
I don’t diddle-daddle
いつも一人ぼっちだろ
いつも考え込んでいる
だけど自転車に乗って出かければ
違った気分になれる
脳味噌は家に置いてきた
戦いに立ち上がろう
悩みは何もない
無駄に時間を費やさない
I work my legs
I pump my tights
Take in the scenery passing me by
The Kerry mountains or the Wicklow hills
The antidote to my emotional ills
A motion built upon human toil
Nuclear free needs no oil
But it makes me hot, makes me hard
I never thought I could have come this far
Through miles of mountains, valleys, streams
This is the right stuff filling my dreams
So come on, get up on your bike
Ah go on, get up on your bike
この足を動かす
タイツを引き上げる
風景が通り過ぎてゆく
ケリーの山々とウィックロウの丘
感情の病への鎮静剤
人の苦難がもたらす動き
原子力放棄は石油放棄を求める
だがそれは私を奮い立たせ、駆り立てる
私は遠くから来たのだろうか
山や谷を越え、川を渡って何マイルも
これは私の心を満たす正しい力だ
おいで、自転車に乗って
さあ行こう、自転車に乗って
Pedal on
Pedal on, pedal on, pedal on for miles
Pedal on
ペダルを漕ぐんだ
ペダルを漕げ、ペダルを漕げ、何マイルも
ペダルを漕ぐんだ
素人翻訳なので間違いがあれば、指摘して欲しい。なにしろ芸名のブルームを、同郷の作家ジェイムス・ジョイスの「ユリシーズ」の主人公から取るだけあって、その歌詞は一筋縄ではいかない。大意としては、塞ぎがちな私だけど自転車に乗れば気持ちが変わる、といったことだろうか。それは能天気な解放感ではない。一心不乱にペダルを漕ぎ続ける覚醒的な陶酔感のようだ。
一人でギターを掻き鳴らしながら、にこりともせず歌う。その姿にこの曲の狂気が滲み出す。それは自転車がもたらす陶酔だろうか。ペダルの円運動と見つめる先の消失点、荒くも規則正しい息に意識が薄れる。ジャリの弾丸自転車レースの一員に組み込まれた気分。エンドルフィンによる超越感、日常を離れる自転車の魅力でもある。そして、ちょっとした驚きが後半にやってくる。
Finally
Luka Bloom “The Acoustic Motorbike” (後半)
With my face to that bitter wind
I bombed it into Killamey
Skin raw like a sushi dinner
And an appetite
That would eat the hind leg of the lamb of God
Even though you know
I wouldn’t dream of doing such a thing
Then settle down for a quiet night
Think about what I’ve seen and done
And wonder
そして最後には
辛い風を顔に受けて
キラーニーへと突撃した
寿司ディナーのような肌の傷
そして食欲は
神の子羊の後ろ足を喰らうこと
知っているかもしれないが
そんなことは夢にも思ってもいない
静かな夜に心を落ち着かせて
見たり行ったりしたことを考えて
そして不思議に思う
There’s a reason for this
Now it the time
To speak of the problem troubling my mind
Sick of the traffic choking our towns
Freaking me out, bringing me down
Knock down houses, building more lanes
Once was a problem, now it’s insane
My solution it’s one that I like
It’ muddy
The Acoustic Motorbike
So come on, get up on your bike
Ah go on, get up on your bike
これには理由がある
さあ時が来た
私の心を悩ませていた問題を語ろう
街の交通渋滞という病は
私を混乱させ、落ち込ませている
家を打ち壊し、もっとレーンを作ろう
かつては問題だったが、今や狂気の沙汰だ
私の解決方法は私の好きなこと
すなわち、泥だらけの
モーターのないオードバイだ
おいで、自転車に乗って
さあ行こう、自転車に乗って
Pedal on
Pedal on, pedal on, pedal on for miles
Pedal on
ペダルを漕ぐんだ
ペダルを漕げ、ペダルを漕げ、何マイルも
ペダルを漕ぐんだ
Ah go on
Ah go on
Get up on your bike
Get up on your bike
さあ行こう
さあ行こう
自転車に乗って
自転車に乗って
交通事故にあったのだろうか、衝突して癒えぬ傷がある。神の子羊である聖職者、ひいては社会へ疑問を投げかける。そして、交通渋滞を解消するために、自転車(?)レーンを作り、モーターのないオートバイ、すなわち自転車に乗ろうと呼びかける。なんと、この曲は自転車の陶酔とともに自転車の社会提言でもあったわけだ。20年近く前のアイルランドからのメッセージが、今こそ輝いて蘇る。