新型コロナウイルスと自転車:予防編

2019年末から新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が猛威をふるい、世界的な大流行は現在も収まる気配がない。日本でも多数の感染者や死亡者が発生し、一斉休校やイベントの自粛、公共施設の閉鎖といった対策が取られている。厚生労働省のQ&Aでは、感染予防のために石鹸での手洗いやアルコール消毒が推奨され、十分な睡眠を取り、人が多く混雑する場所を避け、他人との距離を十分取るように求めている。

【追記】厚生労働省の「国民の皆さまへ(予防・相談)」によれば、風邪症状があれば外出を控え、やむを得ず外出する場合にはマスクを着用することと、密閉、密集、密接を避けるように求めている。従って、風邪症状がなければ一人およびグループで自転車に乗ることは規制されていないようだ。健康には食事、運動、睡眠が大切だから「密」ではない自転車での運動をお勧めしたい。(2020年3月27日)

出典:首相官邸HPより

このようなコロナウイルスに対する一般的な注意事項は見かけるが、こと自転車に関しては国内情報が見当たらないでいる。自転車に乗って良いのか否か、良いとすれば何に気をつけるべきかを知りたい人は多くいるはずだ。そこで関連する海外記事の抄訳を掲載しよう。あくまで簡略化した意訳であるので、詳しくは元記事を確認して欲しい。翻訳サービスを使っても、概要は把握できるだろう。

コロナウイルスに注意して安全に自転車に乗る方法

アメリカ合衆国では当初の感染者が少なかったが、2020年2月末から急激に感染者が増え、非常事態宣言やヨーロッパからの入国禁止措置が行われた。このような社会情勢を受けて、自転車に関する総合WEBメディアであるBicycling(US版)でも3月上旬からウイルスに関する記事が増えている。プロ・サイクリングへの影響を論じた記事もあるが、ここでは一般的なサイクリスト向けの専門家の意見を紹介する。

屋外で自転車に乗るは安全?
イエス。一人でのサイクリングを推奨する。

隔離期間中に屋外で自転車に乗れる?
イエス。他の人と1.8メートル以上離れること。

グループでのサイクリングは避けるべき?
イエス。レースやグループ・ライドは推奨されていない。

サイクリング中の唾吐きは危険?
イエス。唾液を介してウイルスが拡散する可能性がある。

ウイルスが服に残る時間は?
数時間から数日間の報告あり。衣服に他人の唾がつけば消毒すること。

屋外のものに触れないようにすべき?
一般には大丈夫。信号機のボタンなどに注意すること。

汗によってウイルスが伝染する?
ノー。汗ではなく咳やくしゃみによって伝染する。

症状がないのに伝染する?
イエス。症状が現れていなくても感染している可能性があり、伝染する。

激しい運動後に免疫システムは低下する?
イエス。体力を使い果たすようなライドは避けるべき。

ジムでの屋内運動は安全?
ノー。自宅でトレーニングをすべき。

シェアリング自転車での感染予防策は?
利用前にハンドルバーを消毒、手袋を着用し、顔に触れないこと。

キャンセルされなかったレースに出場しても良い?
ノー。人が集まることを避けるべき。

キャンセルされたレースの代替ライドに参加しても良い?
ノー。人が集まると感染が広まる可能性がある。

How to Ride Safely Amid Coronavirus Concerns (Bicycling、2020年3月13日掲載)

コロナウイルス大流行で唾と鼻水について知っておくべき事柄

同じBicyclingに同日掲載された別のライターによる記事。ウイルスの感染経路として唾と鼻水に気をつけるべきと強調したタイトルが優れている。前掲の記事と重複する事柄が多いが、それ以外にレースなどのサイクリングにおける具体的な注意点が挙げられている。以下にその部分の抄訳を紹介する。この記事も専門家の意見に基づいている。

レースやグループ・ライドにおいて自分自身をどのように守るか?
・水のボトルを共有しない。
手ではなく腕に咳とくしゃみをする(咳エチケット)。
トレイの後は石鹸と水で手を洗う。なければアルコール消毒液を使用する。
ポータブル・トイレ使用後も石鹸手洗いやアルコール消毒をする。
食事の前には石鹸手洗いやアルコール消毒をする。
エイド・ステーションのスタッフはエプロンや手袋を着用する。
サングラスを着用して感染から目を護る。

You Need to Know About Spit and Snot During the Coronavirus Outbreak (Bicycling、2020年3月13日掲載)

コロナウイルスQ&A:自転車に乗るのは安全?

イギリスでも2月下旬から感染者が増え、サイクリストでもあるボリス・ジョンソン首相は他国とは異なるピークカット戦略(集団免疫戦略)を取ると発表した。これは感染速度を落としながら、多くの人の感染と回復によって集団免疫の獲得を目指す考え方だが、後に修正されている。そのような混乱があるが、イギリスのCycling UKは専門家に尋ねたQ&Aを掲載している。

70歳未満の健康な人がサイクリングを続けても構わないか?
イエス。感染防止策を忘れずに。

70歳以上の健康な人がサイクリングを続けても構わないか?
イエス。感染防止策を忘れずに。

心臓病、糖尿病、肺疾患などの人がサイクリングを続けても構わないか?
イエス。感染防止策を忘れずに。

咳や熱がある人がサイクリングを続けても構わないか?
ノー。外出せず自己隔離すること。

同居ではない自己隔離者と接触した場合にサイクリングを続けても構わないか?
イエス。社会的な距離を取ること。

同居している自己隔離者と接触した場合にサイクリングを続けても構わないか?
ノー。自宅にいること。

危険性のある国から戻って自主的自己隔離中にサイクリングを続けても構わないか?
イエス。症状がなければサイクリング等は問題ない。社会的な距離を取ること。

出勤する必要がある仕事場へ自転車で通勤して良いか?
イエス。過密な公共交通機関を避けることができるので良い方法です。

グループとして見なされる人数は?
2人以上。

同居している友人とグループ・ライドしても構わないか?
イエス。ただし、どちらかに症状があれば両者とも外出しないこと。

同居していない友人とグループ・ライドしても構わないか?
ノー。誰かが感染している可能性があるため、グループ・ライドは避けること。

自分の子供と一緒に自転車に乗っても構わないか?
イエス。感染防止策を忘れずに。

子供が自転車に乗る場合の助言は?
2メートル以上の距離を取り、帰宅時に手と手袋を洗うように指導する。

社会的距離と自己隔離の違いは何か?
社会的距離とは:
・コロナウイルスの症状がある人との接触を避ける。
・必要がなければ公共交通機関を避ける。
・可能な限り自宅で仕事をする。
・大規模な集まりや映画館やレストラン、クラブなどでの集まりを避ける。
・友人や家族との集まりを避ける。 電話、インターネットなどで連絡する。
・電話やオンライン・サービスで医者などの重要なサービスに連絡する。
自己隔離とは:
・自宅にいる。
・仕事、学校、公共の場に行かない。
・バス、電車、地下鉄、タクシーなどの公共交通機関を利用しない。
・自宅への訪問者を避ける。
・食料品、薬、その他の買い物は、友人、家族、配達サービスに頼む。

次にすべきことは?
弱い人々を保護するためにウイルスを拡散しないこと。グループ・ライドは中止し、直接人と会うことは避ける。高齢者のために自転車で買い物をして届けても良いだろう。

Coronavirus Q&A: is it safe to cycle? (Cycling UK、2020年3月19日掲載)

ストレスに満ちた現代のサイクリストへセルフ・ケアの勧め

これまでの記事をまとめれば、ウイルス感染の症状が出ていないのであれば、公衆衛生のルールを守って一人で自転車に乗ることは問題ないようだ。もっとも、過度の自粛ムードに押されてサイクリングに気後れするかもしれない。しかし、萎縮する必要はない。感染防止と同じように精神的な安定と活力のある生活が大切だからだ。そのような観点からBicylcingはセルフ・ケアを呼びかけている。

自分の感情を素直に感じる
悲しみや怒りを押し殺すのではなく、そのままに感じて受け入れよう。

メンタル・ヘルスのために行動する
公衆衛生を守りながら、普段の習慣を続けて毎日何かを行おう。

新たな課題を設定する
トレーニングの新しい目標を設定したり、新しいトレーニングを見つけよう。

見直して再評価する
中止や禁止などを悲観せず、休息や再生の機会として前向きに捉える。

コミュニティとの繋がりを保つ 
直接会えなくても、電話やオンラインで親しい人たちと連絡を取り合おう。

A Cyclist’s Guide to Self-Care In These Stressful Times (Bicycling、2020年3月18日掲載)

幸か不幸か筆者は事故で入院しているので、ウイルスの脅威や日常の混乱はどこか他人事であった。しかし世界的なパンデミックが長期化しつつあり、自転車もまた無縁ではいられない。それは単に自転車イベントの中止といった商業的な問題に留まらず、私たちの生活に深く影響を与えるに違いない。今回紹介した感染予防の以外にも様々な観点があるだろう。注意深く状況を見守りながら考察を続けたい。

【出典】トップ・ページのアイキャッチ画像はWikimedia CommonsのSARS-CoV-2 without background.pngを利用した。

【追記】イタリアでの新型コロナウィルと自転車(2020年3月23日)

世界一の感染規模であるイタリアでは、FCI(イタリア・サイクリング連盟)がFMSI(イタリアスポーツ医学連盟)からのアスリート向けの提案を紹介している。これはボトルやタオルなどを共有しないこと、更衣室で食事をしないこと、そしてレース前にテレビ局の撮影クルーを避けることまで28項目に渡って具体的な感染予防策を挙げ、予断を許さない状況であることを訴えている。

コロナウイルス-スポーツの世界での拡散を避けるためのFMSIの提案 / Coronavirus – I suggerimenti della FMSI per evitare la diffusione nel mondo dello Sport(Federazione Ciclistica Italiana、 2020年3月6日掲載)

また、イタリアの通信社andkronosは一般に対人距離を取って屋外で一人でスポーツをすることは許可されていることを紹介し、特に自転車は物の運搬や生活上の移動もできるため有用としている。これは緊急事態発令以降にスポーツに対する懸念が高まり、自転車のプロ選手がトレーニング中に強い侮辱を受けた事件を受けた記事のようだ。

自転車はイエスかノーか?保健省が説明を公表 / In bici sì o no? il Ministero della Salute pubblica i chiarimenti(andkronos、2020年3月17日掲載)

ただし、当初は1メートル以上の距離を空ければ屋外で運動することが許可されていたものの、3月20日からはそれも禁止されている。イタリアの厚生省の発表によれば、自宅周辺であれば一人で運動することは依然として認められているが、公園や遊び場などの公共の場への立ち入りは禁止されており、路上など屋外での運動は基本的に禁止とのことだ。この命令は3月25日までとされている。

感染を止めるための新しい制限を伴うスペランザ大臣の命令 / Ordinanza del ministro Speranza con nuove restrizioni per fermare il contagio(Ministero della Salute、2020年3月20日掲載)

 このように自転車であっても行動が制限されたイタリアにあって、女性ジャーナリストによる自転車情報サイトladra di biciclette(自転車泥棒)では、改めてサイクリングが免疫システムを強く保ち、メンタル・ヘルスに役立つことを紹介している。その10項目のヒントでは、米などの全粒穀物やドライ・フルーツを多く摂取することや毎日瞑想することなどをアドバイスしている。

コロナウイルスと自転車:免疫システムを強化する方法 / Coronavirus e bicicletta: come rafforzare il sistema immunitario(2020年3月20日掲載)

【追記】フランスでの新型コロナウィルと自転車(2020年3月24日)

イタリアと並ぶプロ・サイクリングの国、フランスも新型コロナウィルによって危機的状況にある。マクロン大統領が戦争状態にあると宣言し、発令した3月16日の政令によれば、運動を目的とする外出は自宅からの近距離で短時間に限るとしている(Article 1.5)。これを踏まえてFFC(フランス・サイクリング協会)はスポーツ・サイクリングは短距離かつ短時間では不可能なので、自粛を呼びかけている。

個人の身体活動について – FFCの見解 / Activité physique individuelle – Précisions FFC(Fédération Française de Cyclisme、2020年3月18日掲載)

FFCのスローガン« SAUVEZ DES VIES, ROULEZ CHEZ VOUS »
(命を救え、自宅で乗ろう)

しかし、若干の混乱が生じている。大手新聞L’Obsによれば、内務省は「個人のバランス(健康)に必要であれば構わない」との見解を持っている。また、禁止されているのは運動であり、自転車による通勤は明示的に許可されているとしている。しかも自転車に乗っていた同誌の記者は、警察から一人で乗っている限り構わないと言われたと言う。

封じ込み:自転車に乗ることはできるか?政府はノンと言い、警察はウィと言う / Confinement : peut-on faire du vélo ? Le gouvernement dit non, la police dit… oui(L’Obs、2020年3月19日掲載)

以上のフランス事情は日本在住のフランス語ネイティブの知人から寄せられた。彼によると、自転車に特化した感染予防の情報は見つからなかったとのこと。なお、パリのライブ・カメラではロックダウン(封鎖)された街の静かで異様な光景が確認できる。平日のお昼過ぎにも関わらず、自動車の往来はまばらで、自転車で走る人もいない。これは世界各地で同様の事態となっている。

パリの凱旋門付近のライブ・カメラ映像
(現地時間で2020年3月23日12時30分頃)

【追記】デンマークでの新型コロナウィルと自転車(2020年3月25日)

自転車の最先進国デンマークもコロナウイルスと無縁ではいられない。3月14日にデンマークの国境を封鎖し、外国人の入国を禁止している。SST(デンマーク保健省)のQ&Aによると、感染対策は緩和戦略(mitigation strategy)とのことで、その説明は症状から家庭内の対応まで具体的で分かり易い。また、Politi(デンマーク警察)は北欧らしくセンスの良い啓蒙ポスターやビデオを公開している。

新型コロナウイルスに関する質問と回答 / Questions and answers on novel coronavirus(Sundhedsstyrelsen/SST、2020年3月23日掲載)

コペンハーゲン発祥でヨーロッパ各地で自転車シェアリングを展開するDonkey Republicはコロナウイルス特設ページを設け、スタッフが手袋をして自転車のハンドルの消毒を行なっていると伝えている。また、誰もが実行すべきこととして手洗い、手袋着用、携帯電話などの消毒、対人距離の確保、助け合いを挙げており、各地の自転車シェアリングの状況も紹介している。

コロナウイルス/COVID-19の最新情報 / Update on Coronavirus/COVID-19(Donkey Republic、2020年3月12日掲載)

ちなみに、オーストラリアの自転車メディア、Bicycle Networkがデンマークでの自転車事情を紹介している。デンマークでは自転車での通勤や通学が推奨されており、これがコロナウイルスの拡散防止に役立っており、人々が健康である理由だとしている。しかも、デンマーク人は理性的なので、チェーンオイルを買い溜めることはないと賞賛しているのが可笑しい。

デンマークにはコロナウイルスに対する自転車計画がある / Denmark has a bike plan for coronavirus(Bicycle Network、2020年3月12日掲載)

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