自転車と放蕩娘 (4) 女性建築家が設計した住宅

少し暑さのやわらいだある日の夕方、最寄の大垣駅からひと駅の距離を小径車で走ってみた。用事を済ませたが、日が落ちるまでにはまだ少し時間がある。気軽に寄り道できるのが、自転車で出かける醍醐味だ。

寄り道の目当ては、穂積駅から北に約3kmの本巣市北方町にある、岐阜県営住宅ハイタウン北方だ。磯崎新が女性建築家四人を選び、「ジェンダー」というテーマのもと、一人一棟ずつ(全430戸)を設計するというユニークなプランによって始まった。建築家は、高橋昌子、クリスティン・ホーリィ、エリザベス・ディラー、妹島和世の4名、造園設計士も 女性のマーサ・シュワルツを起用し、基本設計が行われた。


内装間取りは県のウェブサイトでも見ることができる。特に私の興味を惹くのは妹島設計のS4棟で、妹島自身も述べているように、北側の共用廊下が建築の表情を生み出している。もうひとつの特徴は、片側の廊下が各部屋をつなぐ独特の間取りであるが、鈴木明は「陽のあたる洗面台──ジェンダーが裏返したプラン」『10+1』No.26で、妹島の意図を夫婦ではなく「娘」を中心としたプランだと読み解いている。

妹島和世が設計したS4棟 (北側)

実際に訪ねてみて意外だったのは、人口1.8万人という町の規模にしては大規模なつくりだ。後から調べると、S4棟は十階建てだとわかったが、自転車で出かけてみて突如として高層の建築群が現れたのには驚いた。気になってさらに調べてみると、ハイタウン北方は、1965〜70年に建設された全1074戸にのぼる岐阜県最大級の県営住宅団地の建替事業として90年に着手されたという(竣工は98年)。その一角に、核家族を維持しようとする社会像への問いかけが差し込まれたのだと想像すると刺激的だ。

中庭を囲んで左奥:エリザベス・ディラー、手前:高橋昌子
右奥:妹島和世、(写っていないが)手前:クリスティン・ホーリィ

ぐるっと敷地を1周して帰る頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。大垣から今回訪ねたエリアは片道約10km、穂積駅からはゆるやかな上り坂だが、1時間ほどあればたどり着くことができる。ただ、惜しむらくはこの日に選んだ帰りの輪行ルートの凡庸さだ。穂積駅まで戻ってひと駅乗ることしか考えていなかったのだが、樽見鉄道を利用すれば北方真桑から大垣までちょっとした旅気分を味わえたに違いないと思うと、少々悔やまれる。

帰路の途中、折りたたみ自転車を組み立てているのが珍しいようで、何人かに声をかけられた。輪行によって、人との関係が変わっていくことに気づかされる。今度はもう少し遠くまで出かけてみようと思う。輪行ルートも考慮しながら。

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