運動能力遺伝子検査「DNA EXERCISE」

これまで私は様々なスポーツに夢中になってきた。近年はもっぱらロードバイクに熱中している。ずっと前からスポーツをやればやるほど疑問に思うことがあった。それは「才能」ってなんだろう?ということだ。スポーツが上手な人もいれば、下手くそな人もいる。練習すればするほど上手くなることもあるけど、練習をしなくても上手くなる人もいて、なんだか不公平な感じがする。

オリンピック選手になるような人はどのくらい練習しているのだろうか、自分も同じくらい練習すればオリンピックに出ることができるのだろうか。いや、まったくそんな気はしない。練習量と練度の高さはイコールではないように思えるからだ。

オリンピック選手を目指すわけではないが、スポーツが好きだ。それは、スポーツをすることによって、知らなかった自分の体のことが色々とわかってくることに面白さを感じるからだ。自分は一時間でどのくらいの距離を走ることができるのか、どうやってボールを投げれば遠くまで飛ぶのか、どのくらいの坂道なら足をつかずに自転車で登りきることができるのか、などなど、簡単なことに思えるが、例を挙げるときりがない。しかし、運動には「向き不向き」がある。「得意不得意」なのかもしれない。二項対立する2つの違いは何なのだろうか。

スポーツマンシップを否定するわけではないが、「人一倍努力する才能があった」や「努力の天才だった」といった言葉よりも、「向き不向き」「得意不得意」の方がより身近に感じられる。潜在的な運動能力に左右されているような、誰しもが持つ「才能」のようなものを感じることができるのである。私はグレープフルーツより大きなボールを使う球技は苦手だ。短距離走はとても遅いが、長距離走はなぜか速かったりする。努力をしているわけではなく、単なる「向き不向き」の話である。しかし、そのなぜかわからない「向き不向き」が潜在的な運動能力の影響で選別されていたり、スポーツの上達に関わっているのだとしたら、是非遺伝子的にそれを調べてみたいと思い、運動能力遺伝子検査「DNA EXERCISE」を行った。

「DNA EXERCISE」とは、運動能力に関係する3種類の遺伝子検査を行い、その結果をレポートしてくれる、運動に特化した遺伝子検査キットである。

DNA EXERCISE
DNAを採取するための綿棒とその方法

キットの内容物は、説明書、同意書、申込書、返信用封筒と、上の写真にあるように密封された容器に入った綿棒だ。DNAの採取方法はとてもシンプルで簡単。

採取方法

①飲食後30分以上経過している状態で、水でうがいをし、口の中を清潔にする。

②付属の綿棒を取り出して、ほっぺたの左右の内側を綿棒で擦って、粘膜を綿棒にしっかり付着させる。

③綿棒を15分程度乾燥させ、容器に戻してラベルに名前を書いて貼る。

あとは、諸々の同意書や申込書を記入し、綿棒が入った容器とともに返信用封筒に入れて送り、結果を待つのみである。

検査結果

結果レポート

約2週間後、検査のレポートが届いた。検査では上記の通り、運動能力に関係する3種類の遺伝子のタイプが調べられており、遺伝子的に自分がどんなスポーツに「向いて」おり、「得意」なのかが分かるようになっている。3つの遺伝子とは「ACTN3遺伝子」、「ACE遺伝子」、「PPARGC1A遺伝子」だ。

「ACTN3遺伝子」

速筋(白筋)と遅筋(赤筋)の割合に関係する遺伝子だそうである。魚に赤身と白身があるようなもので、人によってその割合に違いがあるそうだ。マグロやカツオなどの回遊魚は長距離を移動するため遅筋が発達した赤身の魚で、スズキやヒラメは長距離を移動しないため速筋が発達した白身なのだそうだ。

「ACE遺伝子」

血液供給量の調整と、運動時の疲労度に関係がある遺伝子だそうだ。血液の供給量が多いと、筋肉へ酸素や栄養を多く届けることができる。

「PPARGC1A遺伝子」

ミトコンドリアの生成や機能を調整する、運動効率に関係する遺伝子だそうだ。ミトコンドリアとは、各細胞が活動するためのエネルギーを作り出す、「細胞内のエネルギー工場」と言われる細胞内小器官である。人間が動くためにはエネルギーが必要で、そのエネルギーを作り出しているのが細胞内のミトコンドリアなのである。

検査結果
ACTN3の検査結果(X/X型)

ACTN3遺伝子はX/X型、遅筋繊維が割合が高く、持久力を要する運動に適しているタイプ。日本人の割合で27%だそうだ。遅筋線維の割合が高く、持久力を要する運動に適しているX/X型は、陸上の長距離、マラソン、ロードレース、水泳長距離などのスポーツに向いているそうだ。遅筋の特徴は色が赤く、パワーは弱いが、持久力が高い、乳酸が溜まりにくく、疲労度は低い。鍛えても筋肉が大きくなりにくい傾向があるそうだ。低負荷で高回数のトレーニングが有効と記されていた。

ACE遺伝子の検査結果(I/D型)

ACE遺伝子はI/D型、血管拡張能(筋肉への栄養や酸素を送り届ける力)は標準で、運動による疲労も標準だそうだ。I/D型は持久系の運動に適していて、筋持久力トレーニングで効果が出やすいとの報告があると記されている。また、I/D型に向いているとされる筋持久力を高めるトレーニング方法が紹介されていた。

筋持久力とは、繰り返しの負荷を何回続けられるかという筋肉の持久力のことである。有酸素運動では、ゆっくり軽く運動することや、足の筋肉を意識することなどがポイントとして挙げられていた。その他、ダンベルのポイントとしては、重すぎるのは危険とか、必ずセット後に休憩を取るべきとか、スロートレーニングなどが挙げられ、スクワットのポイントとしては、背中を丸めないことが挙げられていた。それらは私の遺伝子検査の結果に対する運動方法というよりは、広く知られている一般的な運動法の紹介であるように感じた。

PPARGC1A遺伝子の検査結果(S/S型)

PPARGC1A遺伝子はS/S型、ミトコンドリア増殖能は低め、運動の継続によるエネルギー産生量の増加は穏やか。運動習慣をきちんと身に付けることで運動がだんだんと楽に行えるようになるタイプ。日常的にインターバルトレーニングを取り入れることで、ミトコンドリアを増やすことができるそうだ。

ミトコンドリアを増やす運動として、インターバルトレーニングが紹介されている。インターバルトレーニングは、スピードアップとダウンを繰り返して行う、強度の高い練習である。ウォーキングと、ランニングでのインターバルトレーニング方法が紹介されていた。

インターバル速歩

①最初の3分間は、普通のスピードで歩く。

②次の3分間は、足を大きく開き、息が上がるほどの早いスピード歩く。

③1と2を1セットとし、5セット行う。

インターバル走

①最初の100mをダッシュで走る。

②次の100mをジョギングで走る。

③1と2を1セットとし、5セット行う。

その他、ミトコンドリアの働きを助ける栄養素として、

■タウリン(イカ、タコ、貝類)

■ビタミンB群(うなぎ、豚肉、玄米)

■鉄分(レバー、小松菜、あさり)

が紹介されていた。遺伝子のタイプとその傾向だけを示すことだけではなく、より能力を高めるためのアドバイスがあるのは実践に移しやすい。インターバルトレーニングや、栄養素のことなど、よく耳にするような内容ではあるが、果たしてそれを自分が積極的に取り入れていたかというと、そうではない。小松菜、レバー、うなぎ、貝類に栄養があるのはよく知っているが、積極的に食べてはいない。それが、自分の足りない栄養として紹介されれば、食べ物に対する見方も変わってくる。

遺伝子検査の結果をまとめてみると、私はどうやら持久系の運動に向いているが、エネルギーの供給量は少ないようなので、ミトコンドリアの増殖につとめつつ、筋持久力を高めるトレーニングを行うことで潜在的な能力が高まるようだ。最初にも書いた、私がなぜか長距離走が速いこと、それには遺伝子的な理由があった、ということなのだろうか。

運動能力の向上については、検査した3種類の遺伝子と、そのそれぞれ3タイプのパターンだけで、信憑性がどこまであるのか疑問も残る。7000円という価格に対して、3種類の遺伝子検査と、広く一般的に知られているようなアドバイスだけでは割高に感じた。

しかし、遺伝子による自分の知らなかった傾向を知ることができ、今後の生活習慣の改善に役立てることができるのは、メリットではないだろうか。

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