連結自転車のプロトタイピング

複数の自転車を特製器具で繋いで乗る連結自転車の着想は、タンデム自転車からだった。二人漕ぎの自転車は簡単に思えるが、乗りこなすのは結構難しい。二人で漕ぎ出し、一緒にカーブを曲がるのは、掛け声と度胸がなければならない。どちらかが漕がずにいて、相手が苦労することもある。つまり、個人的な乗り物である自転車が、ある種の対人関係や社会性を帯びることになる。これは何とも面白く興味深い。

タンデム自転車は市販されているものの、それなりに高額であるし、長い車体は置き場にも困る。そこで、普通の自転車2台を棒で繋いで連結すれば、即席のタンデム自転車になると考えた。前後に繋げるだけでなく、左右にも繋げる。3台、4台、5台…と数を増やすこともできる。曽根裕の「19番目の彼女の足」(1993年)に近いかもしれない。ただし、連結を外せば、普通の自転車に戻る。

《19番目の彼女の足》(1993年)水戸芸術館での展示風景

それでは、空想の連結自転車を有り合わせの材料で実験してみる。手持ちであったのは、立入禁止場所を示す柔らかい樹脂製のガードバー。この両端は三角コーンに被せるように輪になっている。つまり、シートポストを外して輪に通せば良い。輪は大きいのでタオルで詰めて養生テープで固定する。これぞダーティ・プロトタイピング、いくつかの連結方法を試しながら、乗車感覚や対人関係の面白さを実感した。

ガードバーやタオルは柔らかいので、自転車の繋がりが緩く、不安定に感じる。そこで、硬固な連結を試すべく、ホームセンターで金属製の建築資材を見つけ出す。これでタイトな連結になり、乗車時の安定感が向上した。ハンドルポストを連結すると、ハンドルが切れないために乗車困難になることも分かった。また、シートポストを掴む部分は硬質スポンジで詰めていたので、僅かに緩さが残っている。

ここで思い出したのがミノウラスペースマウントBromptonキャリア・システムをユニバーサル化したように、まさに様々な経のパイプを掴むべく作られてる。さらにミノウラの本社が近くにあり、何人かの方と顔見知りでもあった。そこで工場見学を兼ねて訪問し、自転車の連結方法を相談。素人質問にも関わらず、開発の方から様々な観点から丁寧なアドバイスを頂戴する。

ミノウラでの相談をもとに、取付部の形状に合わせたコの字型の金具を作り、スペースマウントを金属バーに繋ぐ。この制作は金属加工や溶接に長けた知人に依頼した。これで連結力が高まり、安定した走行が可能になる。ただし、連結部の遊びがないので、進行方向を変えるのは難しい。また、多様な形状の自転車に対応させるには、自由度のある機構が必要になる。

このような素人試作を携えて、再びミノウラで相談。小中学生の親子が利用する想定で、キッズ・バイクからママチャリまで対応できるようにしたい。取り付け部は頑丈に固定することもできれば、ある程度動くようにもしたい。と無理難題に対しても、長年のノウハウを踏まえた解決策が次々と提案される。ここに至って素人では困難なレベルとなり、ミノウラで試作していただけることになる。

この第4プロトタイプは、スペースマウントの間隔設定や3軸すべての回転が可能だ。ボルトの締め具合で機構の固定や解放もできる。2つに分解して持ち運びも手軽と完成度が高い。何種類かの自転車での取り付けを確かめながら、連結方法や乗りこなしを考える。そして、使い勝手に関して少し手直しを伝えて、最終版の制作を依頼した。実際の運用での活躍を期待したい。

2 comments

  1. タンデム自転車を探していたら辿り着きました。興味深いです。家の知的障がいのある息子と自転車乗りを公園の二人乗り自転車以外でもしたいと思っているのですが、普通自転車だとブレーキ操作上手くできない不安があって難しいのです。
    前後で連結できるのがいいですね。前が急に止まっても衝突回避できて。コーンのポールを思いつくなんて素晴らしい発想だと思いました。
    連結自転車の次の記事と完成品楽しみにしております。

    1. コメントありがとうございます。連結自転車の試乗の様子はこちらにレポートしています。よろしければご覧になってください。 https://criticalcycling.com/2018/12/balance-karada-jitennsha/

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