何度かの海外ライドは自分で目的地やルートを決めて臨んだ。それぞれ苦労がありつつも、気の赴くまま走り、寄り道などもして楽しめた。一方、日本でも盛んなライド・イベントは、海外ではどうだろう? ツール・ド・なんとか、グランフォンドなんとかのような一般サイクリスト向けのイベントだ。そこで2016年6月、ロンドン滞在中にライド・イベントに参加した。
インターネット検索をして日程と距離感が良かったイベントの中から選んだのは、その名もBike Events社が主催するLondon to Oxfordで、ロンドン郊外のSyon Parkからオックスフォード中心部のOxpens Meadowへの片道60マイル(約100km)、獲得標高2295フィート(約700m)のお手軽ライド。ただ、参加費が£19.50(3,000円弱)と物価の高いイギリスにしては異様に安い。
さて、出発地点は、いくつかのテントが張られているだけで、かなり閑散としている。やたら陽気な受付嬢からゼッケンを受け取る。三々五々と人が集まっては、安っぽいファンファーレとともに出発している。ガイドやリーダーはいない。え?コースはどうするの?と思ったら、WEBサイトからルート情報をダウンロードするらしい。もちろん、その場でiPhoneに仕組んだが、情弱者なら参加は覚束ない。
途上では要所要所に方向を示す矢印が張られており、分かりにくい箇所ではスタッフが立って案内してくれる。だが、その数は圧倒的に少ないので、GPSナビゲーションなしには心もとない。実際にも2回ほどルートから逸れて、引き戻したことがあった。前後を走る人たちも間違えていた。張り紙も簡易なので、ところどころ剥がれかかっている。気分は道に迷ったヘンゼルとグレーテル。
いわゆるエイド・ステーションはなく、ルート情報にお薦めのレストランやカフェが記載されている程度。特別なメニューや割引はなく、自分でお金を払って好きなものを飲み食いする。また、これらのポイントにはメカニックの車が立ち寄っている。簡単な調整は無償だが、修理部品は実費。さらに、トラブルやリタイヤの際に連絡すれば、サポート・カーに拾ってもらえるそうだ。
ロンドン郊外の市街地がしばらく続いた後は、なだからな牧草地が続く。生垣(エンクロージャ)で景観が閉ざされていて、単調に感じることも多い。僅かにアップしているようだが、ほぼ平坦な道が続く。唯一の上り坂はChiltern Hills AONBだが、激坂というほどではない。この坂を登れば視界が広がり、やや荒涼とした丘陵地帯になる。道路の舗装状態はどこも良好で、交通量も少なく走り易い。
やがてオックスフォードが近づくと田園や建物が多くなり、華やかになる。古くからの学園都市はハリー・ポッターじみた雰囲気たっぷり。ただ、観光する時間はないので、そのままゴールの公園へ走り込む。これまた安っぽいファンファーレと歓声に迎え入れられて、完走証を受け取る。芝生に寝転がり、トラッド・バンドなどのアトラクションを見ながら、しばしの休息。実際の走行距離は106.1km。
この後は、ゆったりとした座席のリムジン・バスで、まどろみながらロンドンに戻る。自転車は別仕立てのトレーラーで搬送。それぞれの自転車を梱包材で包んで、丁寧に運んでくれる。この料金は£24.50(3,500円強)で、イベント参加料より高いが妥当な金額だろう。途中で渋滞に巻き込まれたトレーラーの到着が遅れ、ロンドンに戻ってから1時間以上待たされたのが唯一のトラブル。
このように、日本のライド・イベントの至れり尽くせり感はないものの、必要最小限のサポートを低価格で提供している。やや心もとなく感じるのは、贅沢なイベントに慣れているせいだろう。このようなイベントが同社だけでも、ひと月に数回催されている。お祭り騒ぎではなく、ちょっとしたレジャーとして地に足が付いている。カジュアルなライドにいつでも気軽に参加できるのは、うらやましい限りだ。