DJI FPVで一人称視点ライド

DJIの新しいドローンFPVを使って自転車に乗る。と書くと意味不明だが、要はドローンの機体を自転車の前部に取り付け、そのカメラからの映像をゴーグルで見ることだ。そうすれば、他の人が乗る自転車に乗る体験ができると考えた。言い換えると、これは自分の目を自転車に取り付けることであり、視覚としての幽体離脱、あるいは自転車への憑依かもしれない。

DJI FPVは目を完全に覆うゴーグルを使って一人称視点(First Person View = FPV)でドローンを操作する。このためにドローンのカメラの映像は視野角(FOV)が150°と広く、ゴーグルに表示される映像の遅延は28ミリ秒以下と少ない。iPhone 12 Proの背面超広角カメラの視野角は120°、一般的な30fpsの映像の1フレームは33ミリ秒なので、FPVの映像特性が極めて優れていることが分かる。

それでは他の人にドローン付きの自転車に乗って走ってもらう。佇んで見るゴーグルの映像は鮮明で、強い臨場感が得られる。自分はただ立っているだけなのに、足を動かそうとしたり、傾きに体が釣られそうになる。機関車トーマスならぬ自転車トーマスの気分だ。ただし、大きなビルに遮られると映像が途切れてしまう。もっとも小さなビルは問題はなく、障害物がない場合の映像伝送距離は6kmだ。


自転車に取り付けたDJI FPVから送信される映像をゴーグルで受信した映像

ゴーグルの位置(人物)と自転車の走行コース
(赤い矢印あたりで映像が途切れている)

FPVのゴーグルでは、VRゴーグルのように周囲を見渡せるわけではないので、少なからず拘束感がある。また、自転車が遠ざかると、単なる中継映像や録画映像を見ている気分になり、臨場感が次第に薄らぐ。これは、自転車が転倒しても自分には影響がなく、安全であると分かっているからだろう。これによって臨場感、すなわちリアリティとはメディアの品質ではないことが分かる。

次に趣向を変えて、安全な私道でゴーグルをつけて自転車に乗ってみる。これはサドルに跨るだけで、相当な恐怖を覚える。意を決してペダルを漕ぎ出しても、一瞬で倒れそうになり、足がつく。思わず叫び、汗が噴き出る。1ミリも動けないとは、このことだ。先程の安泰な遠隔映像とは大違い。リアリティとは感覚器への刺激ではなく、自分自身に関与する運命が引き起こしている。

DJI FPVの映像遅延は僅かとは言え、自転車に乗ってバランスを取るには十分ではないのかもしれない。さらに重大な障害は、カメラが自転車の下方前方にあることだろう。自分の目を切り離して、別の場所に置いているのだから、普段とは異なる視覚フィードバックに大混乱するわけだ。もっともこれは、さかさま自転車逆さメガネと同じで、長期間に渡って訓練すれば慣れるのかもしれない。

逆さメガネ(Reversing Goggles

ちなみに、この試みは、DJI FPVの目視外飛行の承認に随分と時間がかかったので、その間の余興でもあった。許諾を得た後にゴーグルを付けてドローンを飛ばすと、予想以上に快適な操縦感覚であった。同時に操作を誤ると墜落するので、手に汗握る緊張感も強い。つまり、ドローンと私は運命共同体になったわけだ。このように一人称視点のリアルタイム映像は強烈な示唆を与えてくれる。

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