自転車と放蕩娘 (21) 続・サイクリングばあさん

前回の連載で紹介した、群ようこの「サイクリングばあさん」。その後、女性が自転車に乗ることに対して意識の差があるのか、インドからの留学生にも尋ねたところ、母親の世代は自転車に乗っていないという。彼女自身は自転車に乗ることに抵抗がないため、聞かれるまで意識すらしなかったと聞いて、このような日常の記憶を手がかりに、埋もれていくジェンダー意識を掘り起こすことに新たな可能性を感じ始めている。

改めて、昭和2ケタ最初生まれの女性にとって自転車がどういう乗り物だったのか掘り下げてみると、俗に言うママチャリの生産台数が伸びたのは1960年代とのこと。ママチャリという言葉は当時、女性用ミニサイクルを指していたが、後に軽快車全般を指す言葉として定着したという。軽快車に対比されるのは、新聞や郵便配達、出前など近距離の輸送に使われる実用車であり、1964年までは古くから普及していた実用車の台数が上回っていた。「自転車は男性の乗り物」という印象は、ここからも窺える。

1972年のミニサイクル「富士ベガファイン

そもそも、女性向けの自転車の製造販売が始まったのはいつなのだろうか。自転車文化センターの学芸員・谷田貝一男によれば、国産の女性用自転車の製造販売は大正期から行われていたが、女性の自転車利用に関する調査が初めて行われたのは1956年だという。同年、女性用の自転車の特徴や利用方法を明確に打ち出した販売が本格的に始まり、フレームサイズ、車輪径、サドルの縮小化や前カゴの容量の増加など様々な点で改良が重ねられていった。谷田貝の調査では1950年代から2010年代までの女性用自転車の変化が示されており、興味深い。

軽量化や前カゴの普及に加え、自転車業界の販売方針もあり、1958年に女性全体に対して33.3パーセントだった利用者の割合が1964年には38.8パーセントに上昇した。一方で、女性用自転車の販売により、20〜30代の男性で女性用自転車を利用する人の割合が増加し、1964年には男性が所有する自転車の64.2パーセントに達したという。女性の自転車利用率の上昇と男女兼用型の自転車の普及により、自転車に対するジェンダー意識が少しずつ変わっていったのではないだろうか。

1964年に30代半ばだった群ようこの母。ちなみに、2000年代初頭、67歳で近所の買い物用に乗っていたという「プジョーのスポーツタイプの自転車」はこんな車種かもしれない。「自転車は男性の乗り物」という時代を経て、好きな自転車に乗る自由を謳歌する喜びはひとしおだったに違いない。

PEUGEOT Metro

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