究極の下駄自転車を考える

近頃「究極の下駄自転車」の妄想が頭の中で膨らんでいる。ひょいっと下駄をつっかけるように気軽に跨がって出かけることができ、歩くような低速でも快適で、速く走ろうと思えば応えてくれる、そんな自転車。その構成はどんなものになるか、自分の偏った経験と見聞を凝縮して記述してみたい。なお「~でなければならない」といった教義化は何よりも下駄の精神に反するので、「こうだったらよさそう」くらいの話として受け取ってもらいたい。

※8月に書いた「前荷ismのための自転車ジオメトリー考察」 に合わせ記述を修正した(9月12日)。

前に荷物を積みたい

下駄自転車にはそれなりの積載能力が欲しい。持ち物があるからと乗るのをためらってしまうようではだめだ。そして荷物は前に積みたい。飲み物のボトルや工具類など重くてコンパクトなものは前三角に収めてしまうのが理想ではあるものの、そこに配置しにくい上着やらカメラやら食べ物やらを適当に放り込んで走り出すのには、車体前方の空間を使うのが合理的だ。後ろよりも前の方が走りながら状態を把握しやすく安心感が高い。

フロント積載の中でも前カゴは恐ろしく便利で、いったん使い始めるとやめられない。

低速でフラフラしないのがいい

下駄自転車は、動植物や建築や祠などを観察しながら散策するような使い方をしたい。そのためには低速でフラフラしない方がいい。鍵となるのは「ホイールフロップ」だ(※通説には不十分なところがある)。これはいったん左右どちらかに切れたステアリングが勝手にそちらへ切れ込み続ける度合いのことで、その影響は低速時(ステアリングを正面に戻してくれる直進方向の慣性が弱い)、そしてハンドルバーやフォークに取り付けられた荷物が多い場合により顕著になる。過剰なフロップを修正するために腕から力を抜けなかったり体重移動が忙しかったりする自転車は下駄としては理想的ではない。

ヘッドが割と立っていてフォークオフセットも多い車体。

ではどのような骨格(ジオメトリー)の車体がよいかというと、極端にならない範囲でヘッドが立っているものだと思う。ホイールフロップの増減への影響が大きいのはヘッド角だからだ。詳しくは後から書いた次の記事を参照してほしい。

腕よりも足腰で操縦したい

下駄自転車はなるべく足腰で楽に操れるようにしたい。そのためには、ボトムブラケット(BB)はあまり高くない方がベターだと思う。車体を左右に同じだけ傾けた場合、高いBBは低いBBより長い弧を描く。乗り手の体重を支える土台がそれだけ左右に多く移動することになるので、片側へ傾いた状態から反対へ返すのが大変になる。そこそこ立ったヘッドとそこそこ低めのBBの自転車なら、勝手にフラフラせず、かつ体重移動に素直に反応してくれる

フォーク交換によるジオメトリーの変化。このMTBは現在さらに短いフォークを入れ前輪のみ27.5化→トレイルも楽しい下駄自転車になった。

タイヤは太めがいい

下駄自転車のタイヤは太めが気楽でいい。具体的には35mmから55mm(2インチ強)くらいが最適だろうか。臆することなく未舗装路を含む色々なところに入っていけるし、街中の駐輪場にちょっと置くような時にもラックとの相性を気にしなくて済む(タイヤが細いとスポークで車体が支持されている状態になってしまうことがある)。タイヤの接地面積の増加はステアリングの安定にも貢献してくれる。エアボリュームがあると空気を足すのをサボってもそれなりに快適に走れる。

フロント42mm、リア38mm。

ホイールサイズは体格や好みにもよるが、路面のやや悪い場所を走ることや駐輪関係を考慮すると26インチ~700Cが無難ということになりそうだ。なおタイヤ外径が大きくなるとホイールフロップも増す

制動はリムブレーキがいいかも

ディスクブレーキはよいものだが、下駄自転車には向かないかもしれない。まず、リムブレーキでそんなに困ることがない。雨の中のブレーキ性能ではディスクに劣るものの、悪天候に見舞われたなら状況に合わせてゆっくり走ればいい。ディスクブレーキはローターとパッドのクリアランスの管理がシビアで、油分の付着にもデリケート、そして駐輪環境も選ぶ。一方リムブレーキは多少リムが振れていてもつぶしがきくし、全体的に扱いが楽だ。

ディスクブレーキと駐輪ラックとの間には深刻な干渉が生じることがある。

座り心地のよいサドルを簡単に下げられると嬉しい

下駄自転車は、どかっと腰掛けたままゆるゆる進むような、ママチャリ的な状態にも対応するものであってほしい。だからシートチューブは程々に短く、サドルはそこそこ「座り心地」を重視した、かつバチッと走る時に脚の邪魔にならない品であることが望ましい。それをHite-Riteとかドロッパーシートポストで簡単に上げ下げできると快適そうだ。

短いフォークを入れてヘッドを立たせBBを下げた ’90年代の26インチMTB。

シンプルにシングルでいいや

下駄自転車はシンプルであることが大事だ。行動テリトリーの広さと地形に合っていれば、シングルスピードが最高だと思う。シングルは物理的な軽さと共に、ごちゃごちゃ考えない心の軽さをもたらしてくれる。自分は固定ギアに慣れていないので、マシンより周囲の環境に意識を向けられるフリーギアが好み。

シングルスピード26インチMTB。かなり理想に近い。

シングルスピード用の設計になっていない自転車だったり、対応できる状況に少しだけ幅を持たせたかったりするのであれば、1×2というのも面白い。スプロケットから2枚を選び出してシングル化キットのスペーサーをかましてセットし(フリーの材質によっては食い込むかも)、ディレイラーの調整を狭く追い込んでフリクションのレバーで引く。2段なら途中が無いので操作は極めて簡単だ。

1×2仕様の街乗り自転車。

つい乗りたくなっちゃうのが一番の性能

積載、ジオメトリー、タイヤ、ブレーキ、サドル周り、変速(軽さ)。下駄自転車の性能・機能上の要件については概ね網羅的に考察できたように思う。他には傷ついても気にならないとか盗まれる心配をしなくていいとかの心理的な側面もあるが、最終的にはそれもこれもひっくるめて「つい乗って出かけたくなる」のが最高の下駄自転車なのではないだろうか。シングルスピードの心の軽さのことを書いていてハッとこのことに気がついた。そんな一台、組んでみるのもいいね。

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