[車輪の言葉、車輪の数] 手組み・完組み

自転車には、つくり続けていく楽しみがある。それは特定の時点に完成という点を打たずに、ずっと続いていく、つくり続けることを完遂したい、という密やかな悦びなのかもしれない。

といっても、自分自身で金属を加工したり、コンピュータで3次元モデル作成してパーツを作りだすというわけではない。それでも私は、自分のロードバイクをつくり続けている、と主張する。

これは先日送られてきた写真で、ロードバイクの前輪を挟み込んで、上部にハンドルを取り付ける前の、フロントフォークというパーツである。

もともとは黒い色をしたカーボン製フォークなのだが、現在これを塗装している段階で、完成すればクロモリ製フォークと取り換えて組み付けられる。現状を確認するために送られてきたこの写真を見ながら、このフォークがつくられている間にこのフォークにつけられる新たなホイールのことを考えている。

ホイールを選択する、それを自分のロードバイクに取り付ける、このプロセスを完遂するために、まず車輪というものを、歴史や神話、また民族や土地の文化など、技術や性能だけでなく、「人と車輪」という関係から見つめていくのも良いのではないか。ここからは、この連載記事の実践編とも言えるかもしれない。


Rolf Prima(ロルフ・プリマ)はRolf Dietrich(ロルフ・デートリッヒ)氏が設立した、米国オレゴン州ユージーンにある自転車ホイールメーカーだ。ここではホイールのハンドビルドによる受注生産をしており、技術はもちろんのことだが、その形の美しさにも定評がある。

その見た目に対する評価の証に、北米ハンドメイド自転車ショー、通称「NAHBS」に出展されるショー・バイクにはこのRolf Primaのホイールが使われていることも多い。

他と比較すると華奢なスポークパターンを持つRolf Primaホイールは、ロルフ・デートリッヒ氏が発明した「ペアスポーク」によって実現されており、そのつくり方は1997年に特許(パテント)として公開された。

もともとこのペアスポークホイールは、世界の自転車ロードレースに参戦している「TREK」チームの使用するホイールとしてレースの現場に登場していた。その際はTREKのホイールブランドである「ボントレガー」という名称で使用されていた。高スピードで長距離の過酷な条件下でレース用ホイールとして鍛えらえてきた、れっきとしたレーシングホイールでありながら、少ないスポークでホイールにかかる力を支えている。

後に独立し起業して「Rolf Prima」となったこのホイールの背景にある考え方は、以下のようなものである。

「後輪にトルクが掛かる時、テンションを担うスポーク(pulling spoke) は主に駆動側の数本。そこで考えられたのはフランジを跨いでpulling spokeを増やすことはできないのか、スポーク本数を減らして尚、頑強なホイールは実現できないか、これらについて長年研究を重ねた」

特許の添付図より

Rolf PrimaのWebでは詳しいテクノロジーについては述べられているが、さまざまな技術を基礎に立ち上げられたRolf Primaホイールは、自社工場による「ハンドビルド」を掲げている。

ハンドビルド、というと素材から作っているかのようなイメージもあるかもしれない。だがRolf Primaは自社で一から作った素材だけを用いてホイールを組んでいるのではない。ホイールのパーツのうち、リムは自社でアルミニウムを加工しているが、その他のハブ、ハブに使われるベアリング、スポークなどはそれぞれ別々のメーカーのものを組み上げて、自社のハンドビルドホイールとして完成させている。

メーカーから完成状態で出荷されるものを「完組み」と呼び、自転車ショップでパーツからオーダーしてホイールをつくることを「手組み」と呼んでいることが多い。

自転車に乗る人の目的、たとえば舗装路を走りたいのか未舗装路を走りたいのか、坂を早く登りたいのか、長距離でも疲れにくく走りたいのかなど、百人の自転車乗りがいれば百通りある目的に合わせがある。そこに合わせて1点もののホイールをつくることが「手組み」という方法なのである。

手組みホイールをつくる時に欠かせないのは「パーツの選択」であり、何よりもそのホイールを使う自転車乗りが何をしたいのか、という目的に合わせて作られる。私は「手組み」という言葉は、単に「ハンドビルド」を日本語訳した単語というよりも、どちらも車輪をつくる意思や思想を反映しているように感じられてならない。それは、乗り手の意思に、組み手が応答することで、一つ一つの車輪がつくられていくのだ。

それに、完組みと手組み、どちらが良いというわけでもない。いずれの方法であったとしても、既存の車輪と、理想とするホイールとのあいだにあるギャップを、そのままにせずに何かできることはないだろうかとひと手間を加える、そういったことを完遂していこうという態度のことを「ハンドビルド」とか「手組み」という言葉に乗せているのではないだろうか。

いま乗っているロードバイクのホイールを、新たなホイールを入手して組み替えることも、ロードバイクをつくり続けて乗り続けていく一つの過程となる。組み手が乗り手の話を聞き、考え、手間をかけた応答の答えが、ハンドビルドであり完組みであるRolf Primaのホイールをお勧めするのであれば、その選択が何かに劣ることはないだろう。

完組みホイールという言葉は「完成」した状態のホイールのことではなく、車輪をつくるための様々な手間を一通り「完遂」した状態だと考えたほうがしっくりくる。それは車輪というものの形状が持った宿命のようなものにも思える。1周を完遂したら、また次の1周が巡ってくるのだ。


「ハンドビルドホイールの魅力とは」

ブログ記事を書いていると、手元にあったある一冊のカタログにそのような言葉があった。ページをめくっているといくつかの自転車店とその店主たちによるホイールをつくることにかける想いを読むことができた。私は最終的にはホイールを彼らのような技術者にホイールの組み手となって組んでもらう。だが自分自身もそのような立場にできるだけ参与してみたい。その魅力を知るためにはこの先、新しいフォークにつけるための新しいホイールをビルドしていく実践が求められるだろう。

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