a+uのバイシクル・アーバニズム

雑誌「a+u」2021年1月号の特集が「バイシクル・アーバニズムー新しいモビリティと変化する都市」と知って取り寄せた。冒頭の数ページを除いて、その後のほぼすべての約190ページを自転車と都市に費やす充実度。建築と都市の情報誌らしく大判のカラー誌面に精細な図版と写真をちりばめ、細かな文字で詳細な情報を載せている。日本の雑誌ながら和英バイリンガル完全対応と海外志向も強い。

さて、ゲスト編集者でもある千葉学のイントロダクション「バイシクル・アーバニズムー生態学的都市計画に向けて」に本特集の意図が明示されている。すなわち、高速・大量の移動手段を前提とした20世紀型の都市は、自動運転やマイクロ・モビリティによって大きく変化する。それが新型コロナウイルスによって早急の課題となった今、私たちが既に持っている手段が自転車というわけだ。

自転車を基盤とすることで都市構造は大きく変わる。それを筆者は世界有数の自転車先進都市コペンハーゲンの橋で実感した。第2のノキアと揶揄されるトヨタですら、その未来実験であるWoven Cityには旧態依然とした自動車を登場させない。パンデミックは大きな契機となったが、それ以前から自動車利用を最小限にし、自転車やマイクロ・モビリティへ転換することは必然と考えられていたわけだ。

そこで最初のセクションでは、先進的な自転車都市の実例が紹介される。これには意匠と工法の粋を尽くしたスペクタクルな建築が多く、見るだけで溜息が出てしまう。もっとも、奇抜な構造や威圧的な外観ではなく、親しみ易さに溢れているのは自転車ならではだ。筆者はコペンハーゲンやバルセロナで取り上げられた場所を走ったことがあり、違和感なく日常に溶け込んでいたことを思い出す。

続く5つのセクションでは、サン・フランシスコ、ニューヨーク、チューリッヒ、そして東京の4都市について5つの建築事務所による取り組みを取り上げる。それぞれ都市の歴史や文化的な背景を紹介し、現状の分析を踏まえて実施または調査されている自転車による都市計画を提示する。それは個別の建築だけではなく、人と自転車を含めた相互に関連する有機的な集合体であることが分かる。

東京については、高さ5mごとにスライスした地図から始まる。これによりアップ・ダウンを最小化した走り易いルートが浮かび上がる。直線的な最短距離ではないが、快適な自転車移動には最適だ。また、東京における多彩な駐輪風景、物流エリアやオフィス街の週末に現れる高速走行コース、原宿での地域や地形の特徴を活かした建築プランなど、東京大学大学院の千葉学研究室での成果だ。

そして千葉の建築事務所からは、斜め掛けサイクル・ラックなる実用的な提案もあれば、銀座を取り囲む全長2km、標高差200mに達する高速道路上のヒルクライムという豪快なプランも示される。青山通りなど幹線道路の中央植栽帯を自転車道とする提案は、バルセロナや韓国の先例があるとは言え、東京での展開は興味深い。物理的な障壁がないのは疑問だが、さらなる議論が進むことを期待したい。

ところで「a+u」誌のサイトで確認できる2000年1月号以降に移動手段を取り上げた特集はない。自動車の特集はあるものの、それは自動車会社の社屋や自動車博物館などに終始しているようだ。となると今回の自転車特集の特異さが際立ってくる。それは建築と都市を考える上で今や自転車が最重要課題であるとともに、待ったなしの急務だからなのだろう。自転車は新しい時代を切り開く社会の要請に他ならない。

このように充実した重要な内容なので、本誌の一読をお勧めしたい。ただ、自転車や徒歩で何でもできる15分シティを推進するパリや、既に市街地から自動車を排除したオスロを取り上げていないのは不思議だ。また、ニューヨークや東京など大都市に議論が集中しているのも解せない。いや、これは第1弾に過ぎず、近い将来に自転車特集の第2弾が組まれるからに違いない。首を長くして待とう。

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA