猫と自転車に乗れたなら (5)

前回は猫がうまく自転車を利用している話だったが、今回は自転車に乗ってくる“ある人”と野良猫の関係についてである。

自転車に乗ってくる“ある人”とは、自転車で自分たちに食事をもってきてくれる人。一般に「ホームレス」と呼ばれる人。

今年3月、岐阜市長良川で野宿生活をしている男性が5人の若者に暴行され尊い命を奪われた。もともとは河原の猫たちに石を投げていた若者たちから守ろうとしたこの男性に対し、矛先を変えて暴行したことから、このような惨事を招くこととなった。ニュース報道によると、亡くなった男性は自転車で集めて回った空き缶を売り、その収入のほとんどを4匹の野良猫(保護猫)の餌代にあてていた。猫たちはこの男性が自転車で帰ってくるのをいつも待っていた。ホームレスが心ない若者たちに襲撃される痛ましいニュースはこれまでも各地で発生していたが、今回の事件では、猫たちのためにこの男性が野宿生活を続けていたという話に、やりきれぬ悲しみと憤りを感じた。

ホームレスで猫を飼っている(あるいは世話している)人は多い。私の知り合いの元教員も、ホームレスと野良猫に毎日食事を配っていた。社会的弱者であるホームレスは同じように社会的弱者である捨て猫や野良猫と心を通じ合わせることが多い。そこに助け合いのコミュニティのようなものが生まれる。その小さな弱者のコミュニティを社会的に支える重要な役目を果たすのが自転車である。ホームレスにとって、空き缶を運搬し、収入を得るための大切な足である。

私も時々、長良川の穂積大橋で、空き缶をたくさん積んで走るおじさんを見かける。

「一体どうやって積むんだろう」「どのくらいの重さがあるんだろう」「どうやってバランスとるのかな」思わず聞いてみたくなる質問が次々にわいてくる。

ホームレスの人たちにとって必需品の自転車。実際に、自分で修理やメンテナンスまでする人が多いそうだ。そして、このホームレスの人たちのスキルを生かすことで彼らの生活再建につなげようと活動する人たちもいる。NPO法人「Homedoor」はその一つ。代表の川口加奈さんが、大学2年の時、ホームレスの人たちの支援活動をしたことがきっかけで立ち上げた団体で、2011年からは就労支援事業「HUBChari」をスタートさせている。

大阪では、駐輪場不足による違法駐輪が社会問題になっている。これを解決するためにシェアサイクリング事業は始まったが、このシェアサイクイリングでは、自転車のメンテナンスや管理調整業務をホームレスが請け負っている。これはホームレスの生活再建支援事業にもなっており、違法駐輪とホームレスの生活支援という二つの問題を同時に解決することをHUBChariは目指している。今では、シェアサイクルのポート数も200を超え、利用者や雇用機会が着実に増えており、地に足のついた社会解決課題への取組みとして高く評価されている。大阪に行ったら、是非、シェアサイクリングをしてみたい。

自転車を使って路上で生活する人たちを支援する活動は他にもある。米国ポートランドの「STREET BOOKS」もユニークな取組みだ。自転車に本をどっさりと積み込んだ移動図書館のようなもので、路上生活者に本を届け、読書を通してエンパワーしてもらう、つまり困難な生活に活力を呼び込もうという試みである。2011年から始められこのプロジェクトは、もちろんもコロナ禍にある街中でも依然として継続されている。

ポートランドは米国で最も人気のある都市だが、一方でたくさんのホームレスが道路や空地などを場として不法に暮らしていることから、住民から多くの苦情が寄せられ社会問題となっている。ホームレスの立ち退きをすすめ、また、路上生活者用の空間を作ることで問題解決する公共事業的な取り組みもあるが、そういった排除とは異なり、ホームレスに人らしい時間や機会を提供していくユニークな支援がこのSTREET BOOKSである。

STREET BOOKSは、大学教員でありアーティストでもあるLauraさんが始めたもので、世間一般の「路上などに住んでいる人たちには知性がなく、感情をコントロールすることができない」という固定されたステレオタイプなイメージを超えるストーリーを作りたいというのがこのプロジェクトの目的だ。路上で生活することで本を読む機会を失われてしまう人たちが本を手にすることができるための本貸出システムだ。

STREET BOOKSでは、本の借り手と貸し手、あるいは借り手と借り手の間でコミュニケーションが発生する。自転車ライブラリーは本を届けるだけでなく、人と人とのコミュニケーションをとることで、自ら心を開く機会を創出しているのである。

野外で暮らす猫たちが、ご飯と優しさを運んでくる自転車乗り(これもサイクリストと呼べると思う)を心待ちにしているように、路上で生活する人たちもまた、本と人との知的な出会いとコミュニケーションを運ぶ自転車STREET BOOKSを心待ちにしている。

自転車はこれを待ち望む者のココロとカラダに糧を運んでくれる乗り物でもある。

おまけは、あいちトリエンナーレ2016の一風景。会場近くの公園でノラ猫たちに自転車を駆って餌やりにきたおじさんのもとに集まった茶と黒の猫たち。とってもなついていたのが印象的。今年の暑さは半端ないからおじさんも猫たちも大変だろうなあ。頑張れサイクリストたち、猫たちと共に。

One comment

  1. 社会的弱者としての野良猫とホームレス、そして自転車へと問題提起をありがとうございます。最近の宮下公園や古くは新宿駅西口、さらにはスーパーシティ構想なども息苦しさ(生き苦しさ?)を感じますね。ポートランドもお洒落シティにホームレスとヒッピーが混在した多様性が魅力だったと思うのですが、抗議活動が暴動弾圧になってアベコベ。そのような中での自転車の活躍は嬉しい限りです。

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