新型グループ・ライドのギア、オーディオ編

新型コロナウイルスの感染予防に配慮した新型グループ・ライドは、各地の人々が自転車に乗りながらオンライン会議システムに集う。その際に音声による参加者同士の会話が重要なので、聞き取り易いイヤフォンやマイクを使いたい。ただし、耳を塞いで周囲の音が聞こえない場合は安全運転義務違反になる。そこで安全に会話できるであろうオーディオ製品をいくつか試した。

具体的にはIAMAS学生の柴田英徳が、自転車に乗って建物の周りの道路を走りながら、筆者と会話をして検証した。天候は曇りで時折小雨が混じり、弱い風が吹いていた。交通量は少ないものの、自動車の騒音や清掃の音が混じることがあった。以下にZoomのクラウド・レコーディングと機器の解説、そして柴田による使用感を掲載する。筆者はAppleのiPhone 11 Proを単体で用いて建物の外で会話をした。

スマートフォン単体

新型グループ・ライドのミニマルな装備はスマートフォンだけで良い。内蔵されたマイクとスピーカーを使って、いわゆるスピーカーフォン状態で会話ができるからだ。歴史的にはスマートフォンは「電話」であり、雑踏や野外の騒々しい場所でも会話ができるように工夫されているはずだ。Androidフォンは種類が多過ぎることもあり、スマートフォンの代表格であるiPhoneを試してみる。

Apple iPhone XS

Apple iPhone XS単体での使用感:相手との会話は問題なく行えた。スピーカー状態なので周りの人にも、話し声が聞こえてしまうことに恥ずかしさを感じた。また、時々聞こえづらいことがあり、相手に声がより届くようにと、無意識に顔をスマートフォンに近づけて話をしてしまった。これは事故に繋がりかねないので注意が必要だと思った。

ネック・スピーカー

蹄鉄型のネック・スピーカーは首に掛けて使用する。一般的なヘッドフォンのように頭や耳を圧迫しないので、気軽なリスニング環境として注目されている。ただし、これもスピーカーフォン状態なので、音量を絞っても音漏れがする。また、口や耳との距離があるので、良好な会話ができるのだろうか。激しい運動はしないとしても、走行中にネック・スピーカーが外れないかも心配になる。

Bose SoundWear Comparison Speaker

Bose SoundWear Comparison Speakerの使用感:音質がよくて相手の声は聞きやすい。しかし、重量感がとてもすごい。長時間のライドでは絶対に肩こりになってしまうと感じてしまった。

Shape AN-SS1

Sharp AN-SS1の使用感:相手の声は問題なく聞こえる。Boseのネック・スピーカーより非常に軽くて、肩こりの心配はしなくてすみそう。しかし、転んだ時の衝撃ですぐ壊れてしまいそうに感じた。風が強い時は飛んでいってしまうのではないかと少し心配してしまう。

サングラス・スピーカー

サングラス・スピーカーは眼鏡のテンプル(つる)にマイクやスピーカーが組み込まれており、サングラスを掛けるだけで会話ができる。自転車に乗る時はサングラスをすることが多いので、渡りに船とも言える。テンプルは口や耳に近いので音響的には有利だが、あまり大きな部品を仕組むのは無理がある。なお、一般的なサングラスと同じく、レンズは取り替えができる製品が多いようだ。

Bose Frames Alto

Bose Frames Altoの使用感:音を発している部分が鼓膜に近いため、スマートフォン単体やネック・スピーカーと比較するとより鮮明に聞こえた。音が直接脳に語りかけられているような印象も覚えた。サングラスが走行中にズレるのが気になった。

Zungle Panther

Zungle Pantherの使用感:音声は問題なく聞こえる。しかし、マイク機能に問題があるのか相手に音声が伝わらず、会話ができない。また、スピーカー部分が骨伝導方式で、テンプルの部分が窮屈で非常に締め付けられる。そのため、長時間のライドでは痛みや疲れに繋がるように感じた。

骨伝導スピーカー

空気の振動が耳の鼓膜を震わせることで、人は音を聞く。これに対して骨伝導では、耳の前や後ろに振動する装置を装着し、頭蓋骨を震わせることで音を聞く。このために音漏れがほとんどなく、通常の耳で聞くことも阻害しない。ただし、高品質な音の再生は難しいらしく、製品数は限られる。なお、先のZungleも骨伝導方式を謳っているものの、音漏れが大きいので要注意だ。

AfterShokz Aeropex

AfterShokz Aeropexの使用感:音漏れも一切せず、音声は全く問題なかった。とても軽く、使用中の違和感もほとんどないため、個人的には新型グループ・ライドに非常に向いている製品だと感じた。

外部音取り込みイヤフォン

通常のイヤフォンは耳の穴に装着するので、耳を塞いで周囲の音が聞こえにくくなる。ところが、最近の製品では、周囲の音をマイクで拾って聞こえるようにする外部音取り込みモードが備わっている。これは補聴器と同じ仕組みであり、耳を塞ぐだけで安全運転義務に反しているとは言えないことを示している。さて、路上の警官はどのように判断するだろうか? 警察本部の見解を本稿の最後に追記している。

Apple AirPods Pro

Apple AirPods Proの使用感:今回使用した様々な製品の中で、最も鮮明に聞こえた。予想以上に、外音も鮮明に聞こえた。しかし、走行中の振動で落ちないか非常に心配してしまった。

Sony WF-1000XM3

Sony WF-1000XM3の使用感:音声は走行中のノイズが入り込んで聞きづらかった。今回使用した製品の中で、一番新型グループ・ライドに不向きであると感じた。また、イヤフォンの操作に専用のアプリをダウンロードする必要があり、手間がかかるのも気になった。

以上のように、スマートフォン単体や多くの製品で自転車に乗っているとは思えないほど快適に会話ができることが分かった。これにはZoomでの音声処理も大きく寄与しているはずだ。そして、これまでの外界を遮断する音楽鑑賞とは異なり、新型グループ・ライドでは都市や自然と交わりながら、遠方の他者と会話をする。そのためのオーディオ機能は、今後の新しい生活様式としても重要になるに違いない。

【追記】外部音取り込みモードでのイヤフォンの使用について、以下の質問を岐阜県警察本部に問い合わせた。

自転車走行時の外部取り込み音モードでのイヤフォン使用につきまして

イヤフォンやヘッドフォンを装着して自転車に乗ることは、道路交通法に明確な規定はないものの、耳を塞いで音楽を鳴らすなどして周囲の音が聞こえないのであれば、安全運転義務違反となると認識しています。

一方、最近の製品では外部音取り込みモードなどとして、周囲の音も聞こえるイヤフォンやヘッドフォンがあります。具体的にはApple社のイヤフォンAirPods Pro、Sony社のイヤフォンWF-1000XM3、Bose社のノイズ・キャンセリング・ヘッドフォン700などです。

参考URL:
https://www.apple.com/jp/airpods-pro/
https://www.sony.jp/headphone/products/WF-1000XM3/
https://www.bose.co.jp/ja_jp/products/headphones/noise_cancelling_headphones/noise-cancelling-headphones-700.html

そこで、以下の質問がありますので、ご回答をいただければ幸いです。

(1) 外部取り込み音モードでイヤフォン等を使用し、通話や音楽再生などをしないのであれば補聴器と同じであり、安全運転義務に違反しないと考えて良いでしょうか?

(2) 外部取り込み音モードでイヤフォン等を使用し、通話や音楽再生などをすれば安全運転義務に違反となりますか? 音量や種類などの具体的な基準や目安を教えてください。

なお、このような判断が業務外であれば、お詫び申し上げます。その際は質問させていただくのに適切な官公庁、部署などをお教えいただけると大変助かります。

以上、交通安全推進のためご回答いただければ幸いです。どうぞ、よろしくお願いします。

これに対して、担当の纐纈氏より電話があり、以下の趣旨の回答をいただいた。

(1) 補聴器と同じように外部の音を取り込む機能を持ったイヤフォンがあることは認識している。そのようなイヤフォンを使って周囲の音がきちんと聞こえるのであれば、使用することは問題ない。ただし、外観では通常のイヤフォンとの違いを判断できないので、安全確認として停車をお願いすることは有り得る。その場合は機能や状態を説明して欲しい。

(2) 周囲の音が聞き取りにくくなるほどの大音量であれば、安全運転義務違反に問われる可能性がある。例えば、警告音や呼び掛けに気がつかず、通り過ぎることがあれば指導などの対象になるだろう。

回答として丁寧に説明をいただいた。口頭であったので聞き取りやまとめ方に間違い等があればご指摘いただきたい。(2020.07.29)

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