[車輪の言葉、車輪の数] “21” について

2020年5月21日、薄曇りの天気の下、京都市南区東九条南石田町にある「竹田工務店」の前にやってきた。

この日の目的は、ある調査を行うために、実際の作業が行われている現場に行き、作業状態の確認を行うことである。その調査の対象となるものは「車輪」だ。

竹田工務店の建屋の中に入るとすぐ、その「車輪」は目に入ってきた。「車輪」はおよそ2メートルほどの直径がある大きさで、上部をベルトで釣り上げられ、地面との接地面には車止めが嵌められた状態で設置されていた。

木製車輪

これは、京都・祇園祭の行事の一つである「山鉾巡行」で用いられる、山鉾にとりつけて移動させることを目的とした、巨大な木製車輪である。竹田工務店はこの木製車輪の製作・修繕を行っている数少ない工務店の一つである。

この日からさかのぼって10ヶ月前、2019年7月17日に行われた山鉾巡行行事をすべて終えたあと、山鉾を解体して部材の確認を行っていた際に、この車輪に部分的な破損が発見された。その後の調査や修理方法の検討の結果、その年の冬2019年12月、車輪は竹田工務店に運ばれて分解・修理されることとなった。

この時に取り外されたのは車輪の外周部分、現代の車輪で言うならば「リム(Rim)」と呼ばれるところである。木製車輪ではこの外周部分に使う部材を「大羽(おおば)」と呼んでいて、これを複数組み合わせる仕組みとなっている。

取り外された大羽を見ると、現代の車輪で言う「スポーク」に当たる部材「輻(や)」との結合部が破損していた。そこで新しくこの部分だけを修理してまた組み上げて使うことになる。

取り外された、破損した大羽

歴史的に「御所車」や「源氏車」と呼ばれているタイプの木製車輪は、この大羽を7枚組み合わせて円形にしている。大羽1つに対して輻が3本はめ込まれる。大羽には3箇所、輻がはめ込まれる穴が空けられている。これが7枚あるので、一つの車輪には合計で21本の輻があることになる。

「ハブ」に当たる部材「轂(こしき)」に1から21までの番号が見える

車輪の外周部となる、現代の自転車でいえば「リム」にあたる部分をこのように分割して組み立てる時、7という数が選ばれた理由は気になる。360度の円に用いる部品が「360」という数を割り切ることができない「7」という枚数、奇数になっている理由はよくわかっていないが、1500年もの間、同じやり方で作られてきたのだという。[参考]

しかし、円を「360度」とする考え方が日本の平安時代には存在していなかっただろう。その概念がもたらされたのは江戸時代以降であろうと言われている。しかし、それよりも以前から実際に7枚に分割された円は製作されてきたのである。数字だけで理由を読み解くことが必ずしも良い方法だとは限らない。

平安時代の絵巻物などからは、輻の数には21本以外の種類もあったことが読み取れる。15世紀末の車作りに関する文献からは、大羽が8枚のときは輻が24本で、7枚のときは輻が21本というように、車輪の組み方にはいくつかのバリエーションがあったことが伺える。いずれにしても3の倍数だけ輻が使われていたこともわかる。こういった複雑な経緯に対して現代の考え方だけを用いたり、ある特定の尺度だけを用いているだけでは、車輪を読み解くことは難しいだろう。


平安時代の木製車輪における数字が、現代の自転車ホイールにおいても現れる。カンパニョーロのホイールには「G3」という名前の独特なスポークの組み方がある。一般的な自転車のホイールでは、スポークは均等に張り巡らされている。また、スポークの数も32や36といった「偶数」であることが多い。

一般的なスポーク(シマノ)

それに対して、カンパニョーロのG3は、3という字が示すように3本のスポークが一束になったような特徴的なスポークパターンとなっている。そのスポークパターンが7つ、合計21本の「奇数の輻」から成る車輪だ。

G3組みのスポーク(カンパニョーロ)

遥か昔の木製車輪が現代にも伝わっており、現代の高性能な自転車、ロードバイクに使用される車輪からも、「3 x 7 = 21」を見つけることができるのは興味深い。重量を支えるため、振動を分散させるため、空気抵抗を減少させるため、その他にも技術、科学の視点から車輪を数字で読み取ることはできるだろう。

しかしその一方で、数そのものの意味ではなく、言葉のイメージから「7」と車輪の関係を述べることもできる。たとえば日本最古の歌集である「万葉集」には

恋草を 力車に七車 積みて恋ふらく 我が心から

という歌がある。恋の想いをたくさんの草に例え、七輌という多くの車に積むほどの量である、と歌われている。「7」という数は、とても多い、ということを表す言葉でもある。七面倒、七福神、七味唐辛子・・・・。

車輪の輻は全周囲に向けて放射状に組まれている。「7」の数字を用いることで、世界のあらゆる方向、数多くの空間や時間を超えていく、そのような意味をもたせたと考えることはできないだろうか。万能性、永遠性、そのような想像を車輪から人々は感じ取ってこなかっただろうか。

人間の移動範囲を拡張してきた車輪や車輪を持つ道具たち。これら車輪を通して人間の身体イメージを言葉に仕向けたり、数字によって読み取ったりすることができないだろうか。

走って出かけるフィールドにむけて、車輪の言葉をイメージしよう。車輪が持っている数のことを、身体を走らせることによって表してみよう。これを当座のキャッチコピーとしておく。


山鉾巡行のために修理された車輪は、そのまま竹田工務店に留まることとなった。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、祇園祭の主要な行事は中止へと追い込まれた。山鉾巡行も行われないため、この車輪があまねく国々の厄災を除くために、市中を巡行して無病息災を祈願することは、出来なくなった。

この2020年を境として、車輪と人間の関係はどう変化していくのか、車輪の(性懲りもない)再発見をここから初めていきたい。

  • 参考書籍
    • ものと人間の文化史 牛車(ぎっしゃ)櫻井芳昭 2012 法政大学出版局

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA