自転車に「乗る」ためのレッスン 第12回 ぐるりと運動する

ベルナルド・ベルトルッチとキャメラマンのヴィットリオ・ストラーロが本格的に組んだ最初の作品が『暗殺のオペラ』(1970年)である。ボルヘスの短編『裏切り者と英雄のテーマ』を原作に翻案されたこの映画で、主人公は街で借りた自転車で移動する。道を尋ねに入った家で、老人は自転車を貸すのだが、壁に吊されている。

主人公は、父の愛人の家を自転車で訪ねるのだが、この訪問のシーンは、ベルトルッチとストラーロによる名シーンだ。主人公が陽光のもと建物の中庭にゆるやかに侵入してくるのにあわせてキャメラも動く。ピロティーを横切り、日陰に自転車を止め、降車して扉をノックするが、キャメラはそのまま中庭を周回し、ピロティに立つ愛人を捉える。彼女が歩き出し、キャメラはそれを追い、停止すると主人公が再び画面に戻り、愛人を追う。

このワンショットの運動。ただただ運動。しかしその誰の目でもない運動。撮影としては、もちろん光のコントラストの設計が語られてしかるべきなのだが、画面の運動として、自転車が動いていることを追跡する眼差しが、人物の降車から歩き止まるのを無視するかのように進む、ぐるりと回転する。そして別の人物で止まり、その歩みに運動がキャリブレーション=較正(こうせい)されていく。

映像に登場する自転車を見ることは、そこにある純粋な運動を捉えることでもあるが、キャメラの眼差しが作り出す運動との較正を見ているのかもしれない。あらすじをなぞった動きではなく、運動と較正の差異と一致が映像に物語りを構成していく。

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