和歌山の国道トンネルで自転車事故

2019年末に和歌山県内の国道42号線をロード・バイクで走行していたところ、由良トンネルの出口近くで後ろから来た軽トラックに追突され、転倒して負傷した。すぐさま救急車が駆けつけ、近くの病院に搬送されて入院。筆者はこの間の記憶がないものの、自転車の前部に取り付けたGoPro HERO8でタイムラプス撮影した映像が残っている。これは10倍速、つまり0.33秒ごとの撮影であった。


事故に遭うトンネルは2’00”頃から。映像は上下反転しており、追突後は映像全体にボカシを入れている。

トンネル前では一旦立ち止まって前後ライトの点灯を確認し、後続車の通過を待っている。トンネルの幅員は12mで一般車が余裕を持って走行できるが、歩道等はない。自転車は路側帯の白線の内側か線上を走っている。暗所に弱いGoProでも綺麗に映っているので、トンネル内は比較的明るい。そして何の前触れもなく突如として地面が映し出される。追突だ。その後程なく救急隊や警察が到着している。

また、Garminのサイクル・コンピュータEdge 830の走行データからは、トンネル内は緩やかな上り坂だったようで、自転車のスピードは時速10数kmが続き、ゆっくりと慎重に走っていたことが分かる。ケイデンスも90RPM弱で安定しており、左右に揺れるなど不安定な動きはなかったと推測される。左手に付けていたApple Watch 5が捉えた心拍数なども分析したいところだ。

Garmin Edge 830による走行ルート
(事故地点以降の南東部は自動車での搬送)
Garmin Edge 830による走行データ
Apple Watch 5による心拍数と活動データ

自転車のライトはBontragerのIon 700 RTとFlare RTで、性能的にはトップ・クラスだろう。リア・ライトはリア・バッグに隠れがちなので、ヘルメットの後部にGarminのVariaレーダーを取り付けていた。これはリア・ライトとしても強力に機能する。さらに、リア・バックのTailFin AeroPackや全身Raphaの衣服には随所に反射素材が配されている。自転車の視認性としては必要十分であったと考える。

このように道路状況にも自転車の装備や走行にも問題がない。トンネルに入ってから何台かの自動車に追い抜かされているが、特に危険を感じていなかった。ところが、出口まで十数約80メートルのところで、後ろから来た軽トラックが自転車に突っ込む。自転車の右側ドロップ・ハンドルを軽トラックの左側ドアが咥え込み、引きちぎっている。筆者もバランスを崩してて転倒し、大きな衝撃を受けた。

(ドアに描かれていたマークは某組合の要望により消去している)

軽トラックは某組合職員が一人で業務運転をしていた。古い車種だが、当月に車検を受けたばかり。ドライブ・レコーダは後付けで装備していたそうだが、映像の提供は拒否された。しかし、自動点灯や自動ブレーキといった安全装備はない。そして、暴走していたわけではないものの、ヘッドライトを点けておらず、路肩寄りに走行し、追突直前まで自転車に気がつかなかったと言う。


軽トラックのドライブ・レコーダの映像

運手者は30代前半の青年。近隣住民で付近の道路に慣れている。業務や私用で毎日運転しており、自動車事故を起こしたことはないそうだ。追突の原因に、ヘッドライトを点け忘れた、左寄りに走行する癖がある、後続車の接近に気を取られていた、自転車のリア・ライトをトンネル壁面の赤ランプと勘違いしたなどを挙げる。実際には昼食を考えながら、脇の財布を弄って漫然運転をしていたらしい(追記参照)。

近年問題になっている高齢者や性格異常者が運転していたわけではない。道路や車両も不十分だが格段に条件が悪かったわけではない。自転車としても怠っていた点はないと思う。だが追突事故が起こり、筆者は大腿骨骨折他の大怪我を負った。健全な状態に回復できるとしても、随分と先になるだろう。この間は苦痛と不自由が続き、家族や周囲にも多大な迷惑をかけざるを得ない。申し訳ない気持ちで一杯だ。

転倒時に破損し、治療時に裂かれたサイクリング・ウェア

この原因と結果の極端な非対称性は何だろう?この不条理な状況を納得できるように説明できるだろうか? だが、これは誰もが既に知っていることだ。つまり、道路は不完全な構造であり、自動車は不完全な機械であり、運転者は不完全な人間だから、事故は確実に起こる。目先の利便性にかまけて、自動車は凶器ではないと、少なくとも自分は事故を起こさないと根拠なく思っているに過ぎない。


大腿骨骨折および鎖骨骨折のCT画像とレントゲン画像

先日のパブリック・コメントでは、物理的に分離された自転車道路の必要性を訴えた。同様に自動車は既存の車両を含めて自動ブレーキなどの安全装置を必須化したい。そして、人間が自動車を運転すべきではないので、完全な自動運転が必要になる。一朝一夕には実現できないとは言え、少しずつ取り組んで行こう。某組合は軽トラックを破棄して、カーゴ・バイクを導入して欲しい。筆者の家族はTESLAを買った。

なお、このライドはFESTIVE500を兼ねた和歌山の自転車事情調査であった。一年前は推奨ルートを南東から北西へ走ったので、今回は北西から南東へ向けて走っていた。由良トンネル前後の国道42号線は推奨ルートではなく、自転車に乗らない知人のアドバイスであった。これは良くない結果を招いたが、そもそも推奨ルートが不連続で、その間の移動ルートが示されていない。これは改善を望みたい。

サイクリング王国わかやま」より推奨ルートの一覧地図

【追記】軽トラックのドライブ・レコーダの映像は当初提供されなかった。そこで本記事の公開後にその趣旨、すなわち客観的な事実によって事故の状況を明らかにするとともに今後の安全に役立てたいこと、を再度説明したところ、某組合の理解を得ることができた。このようにして某組合から提供された映像をそのまま掲載する。(2020年1月21日)

【追記】自転車に取り付けたGoPro HERO8のタイムラプス映像を、追突後の様子を含めて公開した。(2020年1月28日)

【追記】本件を所管する御坊警察署の事情聴取を受けた。その際に示された実況見分調書によると、軽トラック運転手はトンネルに入って間もなく、昼食のことを考えながら財布の中身を調べるといった、よそ見運転をしていたと供述している。後日、筆者が面談した際にはそのような状況を話さずに、後続の車に気を取られていたと明らかに異なる説明をしている。また、事故発生場所はトンネル出口から80メートルほど手前であり、自転車は車道外側線(白線)の内側に倒れ込み、身体はさらに内側に投げ出されていた。由良トンネルでの交通事故は比較的少なく、危険だとは見なされていないとのこと。これらの見聞に従って本文を一部修正した。(2020年2月12日)

【追記】大腿骨骨折および鎖骨骨折のCT画像とレントゲン画像を追加した。(2020年2月17日)

7 comments

  1. あらためてお見舞い申し上げます。
    某組合、ひょっとすると妻のかつての勤め先かもしれません。

    それはさておき、Madoneに替わるロゴの無いバイクが必要ですね。
    もう、思い切ってペイントオーダーしてしまう、というのはいかがでしょう?

    1. お見舞いの言葉ありがとうございます。

      ペイントオーダーとは普通にロゴあり自転車を購入して、すぐさま塗装し直すってことですか? それなら何でもありですね。

      1. > ペイントオーダーとは普通にロゴあり自転車を購入して、すぐさま塗装し直すってことですか?
        はい。一般的な言葉かどうかは分かりませんが、最近は凝ったペイントが人気で、自転車専業のペイント業者はどこも混み合っています。
        私が行きあった方で、自身の愛猫そっくりにペイントオーダーした方がいらっしゃいました。
        https://www.instagram.com/p/BYGDc7XBdQS/
        これはこのショップの例です。
        https://www.abovebike.com/paint-scheme

        凝ったペイントの場合は、できる業者が限られるので半年待ちもザラのようです。

        ただ、冷静に考えるとCFRPフレームへの塗装、というのはあまり聞いたことがないですね。
        フォークはともかく。単色なら可能だとも思いますが…

  2. ドライブレコーダーの動画見ました。

    映像を見ると視認がかなり困難に思います。
    どこかで赤松さんが出てくることがわかっていても衝突寸前まで見えません・・・
    トンネルの出口の輝度差と相まってライトを付けていてもちゃんと視認できるか怪しく感じますね。
    車の運転手的には対向車に注意が向きますね。人間の性能の限界を感じます。
    道路の設計がバグってて、歩道を設置すべき道路ですね。それか自動車専用道にする。

    そういう意味では自転車は車道を走るべしという法律もバグっている気もします。
    でも現在の豊かさでは経済性を優先せざるをえないので難しいですね。チャリンコで遊ぶには経済成長がもっと必要ということかな。

    前方不注意な車が全面的に悪いのは間違いないわけですが、
    トンネルの出口付近が大変危険なことを改めて認識しました・・
    トンネルは必ず歩道を通ることにしようと思いました。

    大変勉強になる動画でした、ありがとうございます。

    1. 指摘のように道路はバグってますね。自動車も人間も同じ、と痛感しました。自動運転しかないです(笑)。

  3.  大変ためになる動画をありがとうございました。
     まずはお見舞いを申し上げます。トンネルとは無関係で、まったく私の単独事故なのですが(笑)、実は私も昨年末台湾一周中に転倒して鎖骨を折りました。幸い回復が早く、ちょうど一昨日プレートの抜釘手術を受けてきたところです。赤松さんは大腿骨骨折もおありとのことなので、治療費は相手方損保持ちでしょうから、リハビリ含め十二分に治療なさって下さい。

     私もロングライドの際は事前に十分にルートを調査し、できる限りトンネルは避けるか、歩道付きのトンネルを選択するようにしています。赤松さんのように装備も事前調査も、そして現場でも慎重に追越しを待機された方でも事故に遭ってしまわれたことに改めてトンネルの怖さを感じました。
     由良トンネルは検査用歩道というんでしょうか、路面からすこし高くなった狭い部分もないようで、珍しいですね。せめて検査用歩道があれば退避できたかもしれませんが、本当に大変なご不運でしたね。

     本業は弁護士をしております。実況見分調書の説明と赤松さんご本人への説明が異なるのであれば、そのことを相手方に追及しておいたほうがいいかと思います。仮に追及の結果不誠実だと認められるならば警察に対して警察に対する態度と被害者に対する態度の矛盾を指摘し、厳しい処罰を求めることになると思います。もっとも、本件は略式起訴で罰金にとどまる可能性は高いと思いますが。。。

     ただ、民事上は間違いなく相手方100%の過失でしょうから、さすがに相手方保険会社も過失については変なことは言わないと思います。

     道交法については、自転車、特にロードバイク等のスポーツ用自転車が想定されていないことは問題でしょうね。私のブログで書いたことがあるのですが、「路側帯」は走れるが、「路肩」は走れないというような話が典型的です。
    http://erlang.cocolog-nifty.com/blog/2020/05/post-20331e.html
    私はトンネルを含め、仮に自転車通行可が明示されていなくとも人通りの少ない歩道ならば自転車で通行することも良いと思いますし、むしろ自衛のためにそうすべき場合が多いと思っています。法律はどうしても杓子定規になってしまう部分が避けられませんので、安全のために合理的であれば形式的に軽微な法律違反であってもいいと思います。尾灯は赤色点滅の方が安全ですが、これが形式的には法律違反であることなどが典型ですね。

    1. ご丁寧にお見舞いの言葉をありがとうございました。コメントとアドバイスも助かります。警察には加害者の不誠実な態度を遺憾に思うことを強く伝えました。路肩の記事も拝見しました。形式論も問題ですし、そもそも路肩・路側帯に頼らず、物理的に独立した安全な自転車レーンが欲しいですね。裁判官は自転車に乗っていない疑惑も共感します。赤色点滅違法もなるほどです。

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