[Cyclist’s Cycles 自転車家12ヶ月] 12月

シングルスピードの文化は、アメリカ・ニューヨークのメッセンジャー達が配達のために使用していた競技用自転車(これらは競技場の呼称から「ピスト」とも呼ばれていた)に着火点があると言われている。「もともと自転車には変速ギアはなかった、シングルスピードに乗る事は根源的な行為だ」と、乗り手を含めた形でリスペクトを集めた、というふうに理解している。


シングルスピードはいい。この単純な構造の自転車には、無駄なものが一切取り付けられていない。一見するとロードバイクに似ているが、ロードバイクには当たり前のようについている変速ギアがついていないため、シングルスピードの姿は、より精悍に見える。

私はこの1年の間、自転車に乗るときにはほとんどシングルスピードに乗っていた。競輪の競技用自転車と共通の構造をもっていることから、トラックバイクと呼ばれることもある。トラックというのは競輪競技を行うコーナー部にバンク(傾斜)がつけられたすり鉢状のコースのことである。

ロードバイクには変速ギアが備わっているのが今では常識だが、ツール・ド・フランスでは1903年の初開催から1937年までの間は、自転車変速機の使用が禁止されていた。平地であろうと坂道であろうと変速ギアを使わずにレースが行われていた時代があった。

なぜ、変速を使ってはいけなかったのか。それは、ロードレースでは機材ではなく、あくまで人間自身が主役であるべきだ、という考えがあってのことだった。変速機による恩恵は非力な子供や女性や老人が受けるもので、自転車の王者を決めるツールにはふさわしくない、という選択が行われた。それがロードレーサーの現場だったのだ。

その後も自転車技術は進歩していき、結果的にロードレーサーの現場では変速機を使うようになった。今から見れば、未舗装の峠道を変速機もサポートも無しに、パンク修理も全て自分で行わなければならないという、馬鹿げた行為にも見えるものが、かつてのツール・ド・フランスの文化だということになった。

私がシングルスピードに乗るのは、過去の文化や古い伝統といったものに自分の立ち位置を置きたいからではない。私が変速ギアを使わなかったからといって、初期ツール・ド・フランスの選手たちの感覚を持ったりすることに直接はつながらないだろう。

私はレースを行うのではなく、日々移動をする都市の道を、日々選択しながらシングルスピードに乗っている。必ずしも最短経路ではない道も選び続けている。そして最近では自転車で走る間、ポケットの中ではWALKモードにしたドラゴンクエストウォークのパーティが、悪魔神官やヘルバトラー達モンスターとの戦いを繰り広げている。様々な道を選べば、他の様々なモンスターとの戦いが積み上がっていくことにつながる。


例年12月の年末に、8日間で500kmを走破しそのGPSデータを使ってライド体験をシェアする、というイベントFESTIVE500が開催されている。500kmを走るにはおそらく変速機が要るし、GPSアプリの備わったスマートホンが要るだろう。そしてそのチャレンジはとても過酷なもので、主催者もこのように述べている。

「500KMを走りきる必要はありません。5回走るだけでもいいし、出かけてみようと思う気持ちを持つだけでもいい。走ってみようと思う気持ちが一番重要です」

#FESTIVE 500 半分でのチャレンジ

私はシングルスピードで500Kmを走ろうとはおもわない。けれども、ドラクエのパーティをレベル50に到達させるだけの経験値を効率よく貯めるために、日々無駄とも言える経路選択も行いながらシングルスピードに乗って距離を積むことはする。目的や方法は違うかもしれない。でも私はこれらは共通した自転車家の「現場」なのだと言いたい。それは古い文化への懐古なのではなく、今だからこそ行えること、だからだ。

古い文化に触れることは、古い行為を行わなくてはならないということに限らない。それが500キロ走行であろうと、レベル50に到達するための経験値稼ぎ走行であろうと、リアルに感じる感覚として痛みと馬鹿げたところのあるものが、古い自転車文化に触れる実感となるのではないだろうか。

身体の調子が良いときは「ちょっと登ってみよう」という気になって、斜度5~7%程度の坂道短いを登って帰宅する道を選択する。例えばどの筋肉を動かすかを考える。腰で登る日、裏腿で登る日、内腿を練り上げる日、背筋から押し込む日、いろいろな日毎の選択をする。

夜なら真っ暗でほとんど誰もいないので、もがいてどんな表情をしていても、まあ、なんとかなる。スマホ位置ゲームをやるかやらないは別にして、シングルスピードはいろいろと結構楽しい。

そろそろ後ろのホイールの左右をひっくり返して、FIXギアを味わってみてもいいかもしれない。FIXギアとは、ペダルとチェーンと後輪との回転が固定されているものだ。現在のロードバイクもママチャリもほとんどのギアはフリーギアと呼ばれる、ペダルの回転を止めても車輪は回り続ける仕組みである。

FIXギアは「ペダルを回した距離=走った距離」が厳密に一致する。下り坂であってもペダルを漕ぐ。足が止まれば車輪も止まる。馬鹿げているだろうか?より根源的で面白そうではないだろうか。

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