[Cyclist’s Cycles 自転車家12ヶ月] 11月

11月

自転車家には2種類だけが存在する。紅葉を見届けるためにサイクリングに出向いて、自分の愛車と赤や黄色に染まった樹々との記念写真を撮り終えると春になるまでの休息に入るか、防寒のためにウェアや用具を買い足し、真冬の風に耐えながらの平地走行に備えるか、そのどちらかだ。

自転車家の見た目には、ウェアや装備品などでそれなりの季節感が見られる。それなりにというよりは、極端な差がある。夏は少しでも涼しく、汗が短時間が乾くように、壁に擦ったら破れてしまいそうなほどの薄さの生地で作られたウェアを着ている。冬になれば、分厚く風を通さない生地で、顔も含めて1ミリたりとも皮膚を北風に晒すまいとして、ほとんど変装のような格好となる。

他にわかりやすい季節感を探すとすると、たとえば自転車家の写真アルバムが4月と11月に撮影枚数のピークを迎えているとしたら、それは桜と紅葉のためだ。それは自分自身の姿にではなく、愛車に対して目に見える季節感を添えている。花や植物が自転車の季節感にとって大事なのだというよりも、それぐらいしか季節感を見せられるものがない、とも言える。


November woods

どうして自分の自転車と季節の花や植物をいっしょに写真におさめたくなるのかというと、自転車そのものには季節感をだせる部分が少ないからではないだろうか。ロードバイクのフレームはただでさえ重量を軽くするために細く、また近年では空気抵抗を減らすために薄くなり、写真を撮って平面の画にしようとしたときの面積はとても小さくなっている。自転車家の服装が季節によって大きく変わるのに比べると、自転車自体には変化が少ない、というよりも、見た目の変化はほとんどない。

自転車は「この場所に行った」という記録としてモニュメントと一緒に写す場合もあるけれど、それ以上に季節をあらわす木々や植物といっしょに映り込ませることによって、ストイックなレース用機材としては必要のない季節感をあえて出そうとする。武器である日本刀と観賞用の花とをいっしょに飾ることで感じられるような、意志の強い季節感の一種かもしれない。

それでも、やはり自転車そのものに季節感を持たせたい、と思った場合に提案できることがあるとすると、真先にバーテープをあげるだろう。バーテープはロードバイクのアイデンティティともいえるドロップハンドルに巻き付けられ、ハンドルを握る手が滑るのを防いだり、路面から伝わる振動から手を保護するという役割がある。そしてもう一つの役割は、見た目の彩りを自転車に添えることだ。

White bar tape

バーテープが季節感の演出に適している別の理由としては、ほかのメカニカルパーツよりも比較的安価なパーツだからだ。季節ごとにフレームそのものをとり変えるような手合いはかなり「重度」の自転車家だが、バーテープは春夏秋冬に取り替えたとしても現実的な費用で済ませることが可能だ。

自転車のフレームや使用しているパーツの色とあわせたコーディネイトもいいし、紅葉といっしょに写すなら、桜と一緒に写すなら、海を背景に、雪を背景にどのような自然を背景に写真を撮ろうと思うか、そのようなことを考えるときに消極的な理由ではあるかもしれないが、バーテープは自転車にとっての色や模様を分かりやすく表してくれる。

バーテープは自転車の中でもっとも変化が目立ちやすい部位ではあるが、人の服装として言うならばジャケットやシャツやパンツほどの主要部を占めているわけではない。どちらかというと末端部、靴下や手袋や帽子のような位置に当たる。だから、ちょっと派手かもしれないな、という戸惑いを含めつつ思い切って派手目のバーテープを思い切って巻いてしまうぐらいでちょうどよくなることも多い。そしてファッションで言うならば髪型を変化させるよりは安全に、いろいろ試しては変えて、チャレンジを行える要素でもある。

Bar tape

自転車の中で、人と接する部分、俗に言う「る」のつくパーツは数奇者にとってのこだわり場所であることが多い。「サドル」「ペダル」「ハンドル」これらは人と自転車のユーザーインターフェイスなのだから、機能的なこだわりを受けることも多いが、それだけではなくて見た目の心地よさも受け持っている。

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