自転車と放蕩娘 (2) ポスターに見る自由の女神たち

「自転車は女性にとって新しい世界へ乗り出すための馬であった。」

”Woman and the Wheel, ” Munsey’s Magazine, May 1896

この記事は、アメリカで自転車が普及し始めた当初の感覚を伝えている。だが、その前のなんとも皮肉な一文を見逃してはならない。「男性にとって、初期の自転車は単なる新しい玩具であり、仕事や遊びで知った装置の長いリストに加わったもうひとつの機械であった。」

そう、「馬」は世界へ乗り出すための古いメディアの比喩だったのだ。ただ、自転車は代替手段ではなく、女性にとって馬以上の意味をもっていたに違いない。そのひとつに、前回のエドワード・ペンフィールドのポスターを思い出してほしい。

Ride a Stearns and be content / J. Ottmann Lith. Co., Puck Bld’g, N.Y., 1896. Artist: Edward Penfield.

E. C. Stearns Bicycle Agencyは、1893年創業の自転車メーカー。その最も代表的なモデルであるYellow Fellowに乗った女性がこのポスターの主人公だ。おもしろいことに、この広告は女性のファッションに絶大な影響を与えたという。「注意を惹くので赤いペチコートを着ないように」という警句を尻目に、帽子にスカーフ、グレーのリネンのスカートという瀟洒な(いや、当時にしてはかなり軽快な)出で立ちは、まさに自由の象徴だったのだ。

Stearnsに限らず、自転車を題材に、男女の関係の変化を感じさせるポスターがしばしば見られるのは心憎い。同じくアメリカのメーカーでWhitworth Cyclesのポスター(1894)に描かれた日常のひとコマには、心の機微が垣間見える。背を向けた男性に比べて、思い思いのファッションに身を包んだ女性たちの活き活きとした姿が印象的だ。なかでも、いたずらっぽく振り返りながらひとり自転車を漕ぎ出す女性と、男女の輪のなかから視線を送る女性たちの対比が目を惹く。走り去る女性の背を指さす男性はどんな表情をしているのか。想像力をかき立てずにいられない。

Whitworth Cycles, Paris’ by PAL, Circa 1894.
Artist: Jean de Paléologue.

自転車に乗って、式場を後にする花嫁が描かれたユーモラスなポスターは、フランスのCycles Papillon(1890)だ。花嫁を先導するように舞う2匹の蝶は、社名のPapillon(蝶)とかけたものだろう。後景には騒然とする会場と両手を挙げて花嫁を呼び戻そうとする新郎の姿が小さく描かれているが、悔やんでも後の祭りだ。ベールをなびかせ、颯爽と駆け出す女性は堂々としている。なんと階段を駆け下りているではないか。前景が強調されたダイナミックな構図が心地よい。

Papillon bicycle by the Société française pour la construction de cycles, 1894. Artist: A. Bonnard.

19世紀、自転車は欧米でブームを巻き起こしたが、とりわけ女性解放に一役買ったという。余談だが、筆者は最近小径車に乗り始め、ライフスタイルのささやかな変化と移動手段を選ぶ楽しさを実感し始めている。輪行にもチャレンジしてみたい。日々に小さな革命が起こることを期待して。

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