リチャード・ラーマンの自転車ガムラン

カリフォルニア生れの音楽家、リチャード・ラーマン(Richard Lerman)は、自転車をガムランに見立てたユニークな作品「Travelon Gamelon」(1977)を作っている。ガムランはインドネシアの民族音楽で、金属製の打楽器で演奏される。ラーマンは自転車のスポークにフォノ・カートリッジピエゾ素子を取り付けて、ガムランに似た音色を作り出す。車輪をスティックで叩く異世界フレーバー。

コンサート版では、タキシードこそ着ていないものの黒尽くめの演奏家が、神妙な顔つきでクラシック然とした所作で演奏する。ガムランに聞こえなくもないが、むしろ自然の森のざわめきのように感じる。この作品は、自転車の設定や車輪の回し方、そして叩くリズムを記した楽譜がPDFとして入手可能。即興パートもあるが、それ以外は楽譜に忠実な演奏が求められている。

同曲にはコンサート版だけでなく、20台の自転車に乗って屋外を走り回って演奏するプロムナード版もある。こちらもスポークにピエゾ素子を取り付け、自転車に載せたアンプとスピーカーに繋ぐ。回転するスポークにスティックが当たるので、自転車を走らせればカラカラと連続的に音が鳴る。このような自転車20台で街を走り抜けるのは、演奏者にも観客にも爽快で愉快な体験であったに違いない。

作曲の経緯は分からないが、コンサート版を最初に作ったとすれば、それだけでは飽き足らなかったのだろう。薄暗いコンサート・ホールに逆さまに置かれた自転車は、いかにも不憫だからだ。青空の下でのプロムナード版に見られる開放感とフリーキーさこそが、自転車音楽に相応しい。アコースティックなチャリンコ暴走族とも言えるが、その表現の可能性はまだまだ追求できそうだ。

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