大友克洋・寺田克也のビバ・イル・チクリッシモ!

西暦2020年に荒廃したネオ東京でオリンピックが開催される。その予言的な漫画「AKIRA」の作者である大友克洋は相当な自転車好きらしく、漫画家の寺田克也らとの共作で「ビバ・イル・チクリッシモ!」(2008年)なる希少本を世に出している。緻密なイラスト280点と情熱的なテキスト15万字が詰まった大型本2冊合本で、イラスト入り特製サコッシュ付きの豪華仕様だ。

2冊のうち、ソフトカバー本は2つの雑誌で連載された自転車を題材とするイラスト付きコラムで「カーボンハート」と「おしゃれハンドル」と題されている。連載期間は1999年から2006年まで。大友らが当時結成したクラブ・パンターニなる自転車チームのメンバーによる寄稿であり、当時の漫画家やアニメータが自転車という異次元回路で繋がっていたことが伺える。

連載開始が20年前、連載終了が13年前なので随分と昔のようだが、今日でも違和感がないことに驚ろかされる。自転車やアクセサリー、レースやイベントなどは特にそうであり、Zwiftのようなシステムまで登場する。ただ、筆者は映画「スチームボーイ」に登場する一輪車を忘れていたし、チーム名の由来であるマルコ・パンターニは連載中に死去して伝説と化している。

さて、もうひとつのハードカバー本は、2007年のロード・レース、ジロ・デ・イタリアの3週間21ステージにおよぶ観戦記、本書のための書き下ろしにして描き下ろし。両面Aサイドとして、大友克洋と寺田克也のページが対称的に配置され、ひっくり返して両側から読むようになっている。イラストの点数が多いだけなく、それぞれが撮影した写真も掲載されているので、両者の視点の違いも楽しめる。

ソフトカバー本が気軽で多彩なコラム集なら、こちらは熱く集中的なレポートだ。前作のような軽口は鳴りを潜めて、レースや周辺の様子を真剣に伝えようとしている。今日なら現地からのストリーミングを楽しめるが、この頃はテレビ中継などもなかったはずだ。スポーツ誌のようなレース・レポートではなく、好奇心と遊び心をもって本場イタリアの雰囲気を伝えているのが素晴らしい。

このようにAKIRAや大猿王といった独自のタッチで自転車文化が描かれるのだから、ついつい何度も見入ってしまう。テキストも楽しいのだが、やはりビジュアルなコーヒー・テーブル本として最強だろう。自転車あるあるネタが満載で、マニアはニンマリ、普通の人はキョトンとする。それはネオ東京でもリアル東京でもない街に集う、牧歌的で熱狂的な人々による自転車の祭典だったのだろう。

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