Apple StoreのRapha

先月半ばにApple StoreのWEBサイトを開いて驚いた。そこには十数点のRapha製品が並んでいたからだ。しかも新製品なのか、見知らぬものばかり。どちらも白ベースのシンプルなサイト・デザインだから、間違ってRaphaのWEBサイトを開いたのかと思ったほどだ。Raphaを連想させるのに十分だが、微妙に異なるテイストに違和感を覚えないでもない。

WEBサイトにしろ実店舗にしろ、これまではRapha自身の運営でしか製品を販売していない。つまり、AmazonやデパートにRaphaはないわけだ。そのような独自路線から脱して、外部に販路を求めるのは昨年の買収による経営戦略の変化かもしれない。ただ、その最初の試みがApple Storeだったのは、至極当然のように思える。

なにしろ、Raphaのバッグは明らかにApple製品を基準にしてデザインされている。MacBookにしろ、iPhoneにしろ、ぴたりと収まるのだ。RaphaのデザイナーがMacを使うのは当然としても、Apple Pencilでスケッチを繰り広げ、Appleだから可能だったとまで言っている。これは巧妙に仕組まれたiPadの宣伝ではあるが、ある種の相思相愛関係のなかで製品が企画されたに違いない。

このようにして出るべくして出た製品は、サイクリング色の希薄なスリーブやバッグだ。自転車に乗る時にデジタル・デバイスを守る大義名分はあるものの、これらはブルベ向きではなく、シティ用途の印象を与える。商品説明でも自転車への言及が極めて少ない。これは従来のRapha文脈から離脱し、Apple Store限定商品として成立させるレトリックだろう。もっとも、後日にはRaphaでも販売するらしい。

興味深いことに、Apple Storeのレギュレーションゆえに、大きさとともに重量が明記されている。軽量化が重視されるサイクリング製品でありながら、Raphaサイトでは重量は記載されなかったことを思い出そう。その理由は明らかではないが、郷に入れば郷に従う、ということだろうか。AppleのこだわりとRaphaのごだわり、そのせめぎ合いが面白い。

さて、今回購入したのはバックパックとメッセンジャー・バッグ、それにオーガナイザー・キットで、いずれも色はブラックにした。Raphaのシューズなどと同じく、高級感のある白い化粧箱に収められており、リアル店舗から持ち帰る際のシャレオツ感は高い。Appleのパッケージングに近いが、扉裏に写真が配されるなどミニマル度は今一歩。また、すぐに箱を捨てる著者としては過剰包包装でしかない。

実際の製品は評価が難しい。例えば、バックパックは重い荷物を長時間背負えそうもないが、トートバックとしてなら楽しい感覚が味わえる。メッセンジャー・バッグの身体へのフィット感は良かったが、トップチューブ・バックとしてはフレームを選んでしまう。オーガナイザーは妙なサイズ感で、単なる小物入れ以上の使い道を見いだせていない。いずれもハードなライドではなく、街の散策が似合う。

これまで筆者はRaphaのバッグを毎日のように使っており、そのデザイン性と機能性に感心していた。MacやiPhoneも毎日使っており、研究や制作に必要不可欠だ。それでは、これらが交差する今回の製品はどうだろう? 道具として最適化されていないと感じる一方で、多様な使い方を気軽に楽しめば良いように思える。これこそが、Apple StoreのRaphaたる方向性かもしない。つまり、ゆるふわRaphaだ。

【追記】いつの間にか、Apple StoreからRaphaが消え、これらの製品はRaphaサイトでRapha for Appleコレクションとして販売されている。また、制作の舞台裏として解説やビデオも公開されている。(2018.10.12)

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