「自転車で見た三陸大津波」を擬似並走

武内孝夫著「自転車で見た三陸大津波」は、2011年3月11日に発生した東日本大震災の被災地を自転車で回った記録だ。2013年4月の青森県八戸に始まり、2014年10月の仙台に至るまで、次第に南下するように9回に分けて走行。また、2015年10月にも気になる4ヵ所を再訪している。「防潮堤をたどる旅」との副題にあるように、三陸海岸での津波と防潮堤を巡る観察と考察が中心となっている。

この取材旅行では、東京在住の著者と編集者が新幹線や在来線で輪行をしている。自転車を分解して袋に踏めて鉄道やバスに乗り、目的地で自転車を組み立てて走り出すスタイルだ。悪路での走破性と取材の取り組みやすさを想定して、著者は年季の入ったランドナー、同行する編集者は折り畳み小径車を利用。高速走行を目的としたロード・バイクは「周囲に空気の壁をつくってしまう」らしい。

取材に自転車を用いる理由としては、風景や地形、人々の暮らし、匂いや空気感などを五感で感じ取れるからだとしている。自動車であれば目的地を効率良く回れるが、自転車であれば経路においても常に多くのことを体感しながら移動できる。思いがけない出来事や風景にペダルを止めることもあるだろう。寄り道をしやすいし、通りがかりの人にも話しかけやすい。

一方で、自転車を用いることの危惧もある。多大な被害を受けた復興途上の地域なので、自転車で巡ることが軽薄で不謹慎な物見遊山と思われかねない。また、復興工事のダンプカーなどの大型車が多いので、自転車走行が危険であることも予想される。さらには、被災して復旧していない悪路もあるだろうし、海岸沿いの道は狭隘でアップダウンも多い。快適なサイクリングには、ほど遠いと思われた。

実際には、自転車で巡るメリットが多かったようで、訪ねる先々で違和感なく受け入れられた様子が伺える。しかも「三陸のドライバーはおしなべて自転車にやさしい」らしい。もっとも、工事車両が行き交う道路事情や、三陸海岸に多い坂道やトンネルの走行は大変だったようだ。「なぜ自転車で走るのかと聞かれたら、つまるところ気分がよいから」という著者の思いは封印せざるを得なかったと言う。

さて、本書の主題である津波被害と防潮堤については、安易に紹介することはできない。一言で三陸大津波と言っても、各地での津波の高さが異なり、被災状況も異なるからだ。それぞれの場所での防災設備や防災意識も異なり、復興への意識や取り込みも違う。数十年どころか、百年千年単位での歴史と忘却も異なる。それゆえに何十箇所にも渡って丹念に取材を行った本書の意義があると言える。

本書には章ごとに簡単な地図が掲載され、何葉かの写真も添えられている。しかし、文書が主体であるので、見知らぬ土地を想像することは容易ではない。そこで、本書に記載された地名をGoogle Mapsで検索してマーキングしていった。周辺の写真や口コミも見れるので、擬似的に旅を並走できる。三陸の風光明媚さと津波被害の壮絶さ、そして復興の様子など取材後の時間の経過も感じられる。

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