自転車シェアリング〜深セン・ドックレス編

郊外市街地も素晴しい環境であった桂林を後にして、次に「世界の工場」と呼ばれるIT先端都市、深セン(Shenzhen)に移動した。深センは僅か30年で人口30万人から1200万人へと爆発的に成長し、上海と北京に次ぐ中国第3位の経済規模を誇る。風光明媚な観光名所は皆無なので、観光客としては世界で4番目に高い平安国際金融中心に昇るか、怪しげな電脳街でiPhone miniを物色するのが順当だろう。

だが、ここでも自転車に乗りたい。なにしろ、桂林の何倍もの規模でシェア自転車が展開されているのだから。そこで、桂林から同行したガイドに深セン在住の道案内役ガイドが加わって、3人での市内自転車ツアーを行うことになった。3人で3台の自転車を乗り比べながら市内を回るわけだ。選んだのは2大メジャーの黄色いofoとオレンジのMobikeに加えて、新興勢力の青緑色の青桔单车だ。

これらはドックレス型のシェア自転車であり、利用方法は似ている。まず、自転車にはGPSと通信装置が備わっているので、利用者はアプリで近くの自転車を探す。実際にはどこにでもあるので、アプリを開くまでもない。次に、アプリで自転車のロックを解錠して乗り出す。利用が終われば、適当な場所に自転車を置いてロックをかける。自転車を特定の場所に戻す必要がなく、乗り捨てであるのが最大の特徴だ。

このようにドックレス型は利便性が高く、またたく間に従来のドック型を駆逐した。桂林ではドック型も運用されていたが、深センでは使われなくなったドックが遺跡のように立ち尽くしている。また、利便性は自転車がどこにもある遍在性が重要になる。そこで、大量の自転車が投入された結果、街には自転車が溢れかえったと言う。ただ、現在は駐輪場所が指定され、混乱は収まりつつあるらしい。

また、シェア自転車では再配置問題(Bike Rebalancing Problem, BRP)が大きな課題になる。自転車が集まり過ぎたエリアから自転車が少ないエリアに、自転車を移動させる必要があるからだ。これは高度な数学的統計予想問題であると同時に、人の手を必要とする泥臭い作業でもある。桂林でも深センでも、かなり乱暴に自転車をトラックに積み込んでいた。丁寧な作業をするだけの余裕がないのだろう。

さて、これらの自転車は重く、ギアもないので長距離ライドには向かない。ただ、ブレーキはきちんと効くし、乗り心地が柔らかいのは嬉しいところ。しかし、シェア自転車は乱暴に扱われがちで、整備が十分に行われていない。この時も、まともに乗れる3台が揃うまでに数回自転車を替えたほど。サドルが固定できない、チェーンが外れている、ハンドルが曲がっている、など酷い状態の自転車が多い。

ともあれ、自転車で走り出すと目が回りそうになる。深センでは、事実上歩道を走ることになり、歩道には人が溢れているからだ。チリンチリンとベルを鳴らし、人をかき分けるように進むしかない。何車線もの広い道路が整備されているものの、しかし深センには自転車専用道路は存在しない。歩道の一部が自転車レーンとなっていても、路面がレンガ敷きであったりして走り心地は良くない。

深セン在住ガイドだけが飄々と走る一方で、普段は有り得ない障害物競争に筆者も桂林在住ガイドも大苦戦。ビジネス街や繁華街を巡る予定を変更して、早々に近くの公園に逃げ込む。ここなら自動車は侵入せず、適度なアップダウンとともに綺麗な舗装道路を走れる。街の喧騒が嘘のように静かな森林が広がる。ただ、公園でのライドは快適だが、深センならではの特色があるわけではない。

ともあれ、深センは仕事をする街であって、自転車を楽しむ街ではない。それを文化的貧困と蔑むのは簡単だが、そのような余裕もないほど高度に集積し、急速に発展しているが故だろう。シェア自転車は即物的な利便性と経済性だけが問われる。大胆な実験が進行する中で、すでに経営破綻した自転車が無残に打ち捨てられている。考えるより先に走り出す中国の過激さが、羨ましくすらある。

一方で、シェア自転車が自転車全体の地位を引き下げかねない。パリのVélib’などと同様に、これらの自転車も重くて整備が悪く、粗大ゴミ化する。安価だが性能が低いゆえに乱暴に扱われ、自転車に乗らない人にすら不快な印象を与えてしまう。これは日本での放置自転車問題や自転車=下駄観と似ている。少し整備し丁寧に扱うだけで随分と快適になる。そのような認識が広まるか否かが、定着の鍵になりそうだ。

なお、筆者は未見だが、ofoもMobikeも日本での運営を始めている。中国は万里のファイアウォールを築き、部外者にはモバイル決済を許さないほど自己完結している。それにも関わらず、日本という小さな市場に事業を展開するのだから、よほど自転車シェアリングは過酷な状況にあるのだろうか。それとも、もっと大きな目論見があるのだろうか。ドックレス型の動向には、今後も注目していきたい。

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